翳ろうの恋(6)



「おおやぁ!」
「おーやー!」
「……大江です…」
「どっちも変わんねぇし」
「おっと、とよとよだ」

制服のままの林さんたちは、案の定、スポーツバックを肩に掛けてのご登場だった。
僕よりは少し小さいけれど、平均的な体格の立派な高校生男子が、膨らんだドラムバッグを背負って二人も立てば、流石にうちの廊下も狭く見える。

古いカバーの所為で薄暗い電球の下、全く同じ顔ふたつが、これまた鏡のように笑っていた。


「おばさん、呼んでたぜ」
「はよせんな、こんぐずろぉ、って怒鳴られっぞ」
「似てねえし!もっと手はこう…」
「足はこうか」
「ってか手拭いが足りねえんだよ手拭いが!どこだ手拭い!ギブミー手拭い!!あれ必須だから絶対条件だから」
「とよとよ、手拭い持ってねえ?」
「……見目先輩に借りてきたらどうですか」と、僕。

斗与は脱力した様子で二人の繰り広げる漫才を流していたけれど、見目先輩の名前を耳にした途端、手の中に閉じこめている細い指が拳を形作るように凝った。しまった。

「あー、ミメなー。ミメなら持ってるよなあ、剣道部だし」
「っしゃ、じゃ借りに行ってくっか。使用前のがいいな、俺」
「だよなあ。使用後はちょっとアレだよなあ」

あんたたちの会話の方がよっぽどアレだ。
すると、林さんのどっちかが、あ、と口をぽかんと開けた。
生憎、僕はどっちがリンカンでどっちがリンシューなのか、分からないのだ。

「やっべ、環!」
「お、周、風呂だ風呂!俺ら怒られたんだった」

環、と言った方―――だから周先輩なのだろう、とにかくそちらが、ずい、と此方に寄った。

「とよとよ、風呂入ろう」
「はぁ?」
「駄目です!」

間の抜けた声を出す斗与に、速攻駄目出しをする僕に、周先輩は「えー」と言った。

「あんだよー。しょうがねえなー、この我が儘さんめ」
「いや…なんだか…、もう…我が儘とかって……」

どうにかしろ、と言った目つきで斗与が僕を見上げる。ええと、強制撤去は赦されますか。

鞄を下に置いて二人を彼らの部屋へ押し込めようと心を定めたところで、林さんたちの背後の扉が音を立てて開いた。


「うっせえ!黙れ林ども!!」
「あ、忘れてた」
「そうだ、こっちが先だった。トーメイさん、風呂。早く入って下さい」
「後、つかえてるんで。お願いしますよマジ」


真っ黒な鳥の巣頭に、眼鏡の奥を怒りで滾らせて現れたのは、斗与の向かい部屋の先輩。
東明さんは双子の最大の被害者だ。
林さんたちが原因で下宿を出てしまうんじゃないかと心配するくらい、騒音だの悪ふざけ(主にこっちだ)だのに悩まされている、らしい。
3年生で受験を控えているから、そうでなくても退室しそうなのに。
因みに正しくはトーメイさんじゃなくて、シノアケさん。リンカン&リンシューコンビは自分たちと似たような呼び方をする。

インパクトがあったのか、今ではばあちゃんですらトーメイさん呼ばわりだ。ごめんなさい、東明さん。


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