空ろの城(1)
豪奢な黄金の縫い取りが絨毯の縁を彩り、その上に乗る調度品はどれも飴色に輝き、磨かれている。飾り輪の付いた棚や、官能的なカーブを描く猫足の机。一つ売れば、下界じゃ何十年も働かずに暮らせる代物だ。
中でも俺が一番驚いたのは寝台だ。天蓋付きの寝台。幾重にも薄い紗が重ねてあって、さらその上からは房を垂らした絹織物で覆われている。これにもしっかり緞子で青龍の紋様が入っている。
無論、布団の寝心地は二度と違う寝台じゃ眠れないくらいに、良い。
「…っ、ふ、あ…っ、うっ、あぁあんっ…」
「――っ、は…っ。ねえ、どう、ですか…?まだ、もう少しイケそうですか…?」
「も、…っ、充分だって言って――…ん、っく、う…!」
組み敷いた薄い青年の体躯がびくびく、と跳ねた。彼が酷く感じると、当たり前に俺を咥えこんでいる穴が収縮する。正常位で押し倒しているから、うっすらと汗をかいた首の筋から、胸板から、朱色の刺青の散る腹までも見たい放題だ。勿論、感じまくっている表情までも。
正直言って平凡な顔立ちだ。俺の居た街には彼よりも余程、奇麗な見目の奴がたくさんいた。そいつらの中で一番の美人が、毎年の大祭の日、これでもか、というほど着飾って山車に乗っていたのだ。俺が今抱いている、このひとを模して。
このひとこそがほんとうなのに。
本物の、神様なのに。
「嘘吐かないでくださいよ、神様のクセに」
俺は笑いながら言い、片手で軽く掴みきれるほどの両の手首を、さらに寝台へと縫い付けた。力を入れすぎて、相手の指先は白く変じている。以外はどこもかしこも鴇色に染まって、艶めかしい。
ちょっと可哀想かな、と思ったがそこを支えにぐん、と下半身を押し込んだ。
「ひぃ…っ、あぁあっ!」
頬骨に沿って透明な滴が落ちていく、その様すら奇麗だ。俺と彼の身体の間でゆらゆらと揺れる性器も、同じく涙を流している。先は朱く腫れて痛々しい。可哀想ついでに、腹の筋でもって擦りつけるようにしてやった。くちゅくちゅ、と濡れた音が新たに加わる。
「んあっ!あっ、やめっ!」
「…ほらっ、正直にキモチイイって言わないと、俺…加減分からないですから」
悪戯を始めた途端、彼――群青(むらさを)の嬌声は悲鳴混じりになった。俺の腹は彼の精液で濡れて、ちょっとすると乾いて、すうすうする。もっと時間が経過したらかぴかぴだ。
放って置いて後で見せて、群青が蒼白になって怒る姿を見てみるのも、悪くないかもしれない。
そんなことを考えながら、二人の体の間を詰める。ぐちゅんと粘着質の何かが腹筋にまみれる。それから、弾力のある肉が行き場もなく暴れる感触がする。
「んー、ずるいじゃないですか、群青様」と俺。
柔らかな枕に顔を沈めて表情を隠すようにしている彼の、その耳に一言一句を流し込む。予想通り、群青は逃げた。横顔をぐりぐりと埋めていく。紅に染まった耳の先を舐めて遣ったら、「…いっ?!」と何とも色気のないお声が聞けた。
強情なのは、このひとの悪い性格だ。そこがまた、可愛くもあるのだけれど。
「小さい頃から、神様の前には何でも素直に言いなさい、って言われて育ったんですよ。だから俺、何でもちゃんと告白してきたのに。それなのに、肝心の神様が嘘ばかりって酷くないですか」
それでも群青の体は素直だ。月並みな表現だけど、快楽の前には誰しもが跪く。すべての庭(せかい)の中で、最も栄え美しいと賞讃されるこの春の庭の主であっても、肉の欲からは逃れられないと見える。
いたぶってやっている彼のペニス、それよりさらにいやらしく啼いているのは股座の奥の、窄まりの方だ。本来、受け入れるべきじゃない場所だのに、きっちりと俺の形に広がって男の精を貪っている。
本人は否定するけど、ナカで出された後、さらに強く突き上げられると全身で嬉しそうにするんだ。声だってひぃひぃと高くなるし、肩に引っかけてやった両脚は、俺の首を絞めそうなほどに絡む。
開きっぱなしの口腔の中に、舌が落ち込んでいる。唾液ごと吸い取るように接吻した。突かれながらキスされるのが好きとかって、まるでオンナみたいだ。
「――っ、っは、ほらっ、群青様、また、出します、よ…っ」
「い、やだっ…ぁはあっん、やだっ、いやぁあっ!俺っ、まだイってないのにっ…!」
「だってあんまり前でイったら、あなた、意味ないでしょ…っ。空イキでぐっちゃぐちゃになって、使い物にならなくしないと、外宮に降りられないじゃないですか、」
言いながら、群青の陰茎を指でぎゅっと絞め殺した。
「いっ、ぐ、っ…ぁああっ、やめ、」
「ほら、我慢して。それでケツの穴、しっかり締めて下さい。群青さまのいいとこ、たくさん擦ってあげますから、ね?」
俺の性器で、群青の前立腺のあたりをごつり、と掻いてやる。始終一緒に居るのだ、どこが感じて何処が悦いのかなんて、祈祷文を諳誦するよりも容易い。
先に中で出した精液が、赤く爛れた縁からだらしなく溢れてきた。打ち付けるたび、俺の陰嚢と彼の尻の肉に付着して糊みたいに纏わり付く。
久しぶりに掛けてやってもいいかも。イく寸前まで張り詰めた彼のペニスに、自分の精液がデコレイションされているのを想像するとぞくぞくする。
何より、俺が心置きなく射精して自分が置いてきぼりにされると(とは言え、後ろでしっかりイかせてやるんだけど)物凄く羨ましそうな、切なそうな表情になるのだ。
子どものような大人のような、不安定な年齢の外見を持つ彼がそんな顔をすると、余計に酷くしてやりたくなる。
悪いのは俺じゃなくて、彼の奥底に眠る卑猥さだと思う。
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