(5)



「ほら、」
「……」

無言でそれを掬い上げ、冬織は、事もあろうに先ほどまで弄くっていた俺のそれになすりつけやがった。突然の刺激に素っ頓狂な、甲高い声が喉から飛び出た。それでも、根元を戒めていたもう一方の手の所為で、射精することはなかった。普通に苦しい。

「……ひっ、ぁあ!やめろ、冬織っ!糞っ!」
「…青梧にあいつのニオイが付くなんて、凄い微妙だ…」

ぼそぼそと呟きながら、冬織はシャワージェルを纏った指で窄まりを弄り始める。初めは一本、次に二本、と中を探り出す指は見る間に増えていく。
俺は背中をタイルに押し付け、冬織の両肩へ指を食い込ませながらひたすらに吐息と圧迫感と――混じり始めた快感を逃すことに終始した。先ほどまでは勃ち上がった陰茎から発せられていた音が、今は、彼を受け入れるべき場所から聞こえてくる。ぐちゃん、くちゅり、と、冬織が解す度にそこがしつこく鳴るのは、俺が濡れているからじゃなくて、ジェルが泡立っているだけなのに、とんでもない羞恥だった。しかも、音が派手になる度、妙に爽やかな匂いがする。
観春の匂いがする、と思う。全てが終わった後で体を全部洗い流せば消えるだろうか。

お世辞にも細いとは言えない指が三本入り始めたあたりで、俺は真剣に根を上げた。前を責め立てられ、後ろを弄られ、当たり前にキツイのもあったし、このままでは俺がいってタイムオーバーになりそうだったから。冬織が俺で遊んで終わりになることは、これまでもままあった。
夜遊びの激しい観春の為に、冬織と俺が直に逢うのは実に一週間ぶりだ。

(「お前はそれでいいのかもしれないけれど」)

俺はちっともよくねえんだよ。

「とお、る」

ぜいぜいと荒い息と一緒に、彼の名前を呼ぶ。
恋人は黙したまま執拗とすら思えるほど腸壁を掻き、中で折り曲げた指で内部のしこりを押し続ける。

恥ずかしさを噛み殺して明るい色合いの髪が埋まる、そこを見た。下生えから伸びる自分のものは、もう、触られなくても勝手にだらだらと涎を垂らし続けている。冬織は跳ねる内股を押さえ込んで、完全に綻んだ後ろの孔で遊んでいた。

「っあ、う、冬織、とめろ、それ…違う、っふ、れじゃあない…っ」
「何だ?」

ようやく顔を上げてくれた。観春と違って、冬織は恒常的にへらへらと笑っている訳じゃない。どちらかと言えば表情の変化は乏しいほうだと思う。
それでも、爛々と欲情に光る双眸が、彼の内心を明かしているようで、俺は堪らず脚で冬織を挟み込んだ。
もう片脚を冬織の腹の下へ潜り込ませて、股座を押しやる。

「…く、こら、青梧…」

服越しにも硬く張り詰めているのが分かって、泣きそうになった。
今日、何処かの女を抱いたそれ。女に突っ込んだそれが自分に入る。あいつのことだから間違いなくゴムはしている、そもそもセックスをしたのは冬織じゃなくて、観春だ。ぐちゃぐちゃと縺れ続ける思考を叱咤した。今はそんなことを考えている時間はないんだ。

「もうっ、いいから…!そのままで、挿れ、て」

それで、中で出してくれ。
上がる息の中で願いを口にすると、冬織の切れ長の目がまあるく見開かれた。
数秒の沈黙。
馬鹿はお前だ、と上擦った声が言い、衣擦れの音の後、彼は俺の中にそのまま入ってきた。

「ぅ、…ああう…っ」
「…く…、…――青梧、ナカ、凄い…、」

ずちゅ、という聞くに堪えない音の後で、指とは比べものにならない質量が侵入してくる。開いた太股の内側に、密着した冬織の服がこすれた。一週間ぶりに受け入れる冬織はかなり無茶な大きさだった。

肚の中に自分のものじゃない、ひとの肉が詰まっている。

内臓ごと突き上げるみたいに、冬織は俺を押し倒し、腰を振った。指で弄り倒された入り口も、その先にあるしこりも平等に荒らされて、俺は背を反らしかけ―――のし掛かってきた相手に動きを封じられる。

「…は、ふふ・・…お望み通りにしてやるよ、お前の」
「ん…ぁ、うぁ、ん、はあっ…!」
「あ、こら、自分で触るなよ青梧。俺でいきたいんだろう?」

限界に負け、赤く先を腫らした性器に手を伸ばしたところで、冬織は目聡く俺を制止した。しかも両の手首を一纏めに、壁に貼り付けにされてしまった。

「ふ、っ…ざ、けん、っう、ああっ、冬織、いや、やああっ!」
「あーもうマジで時間ねえし…っ、折角青梧が誘ってくれたのに…」

最後に覚えているのは柳眉を寄せた冬織と、広い肩にひっかけられた、ふやけたみたいな色の自分の足がゆらゆらと揺れている光景だった。切羽詰まった時の冬織の顔は好きだなあ、などと益体もないことを考えている内、坂を転がり落ちるように意識が消失した。



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