(4)



「斗与、ほら食えよ。手ぇ止まってるぞ」

食う子は育つ!と言いながら、みなはたこ焼きと焼きそばと、おにぎりを皿に乗せて突き出してくれた。頷いて受け取る。炭水化物3兄弟、って感じ。その上にローストビーフまで積まれた。これは黒澤が持ち込んだものみたいだ。

「ありがと」
「どういたしまして。林先輩のお袋さんの飯もうまいからお勧めだぜ」
「ぴっちぴちのダンシコウコウセイが喰うから腕に皺を寄せて作れって言っといた!」
「腕により」と東明先輩。当然ながら林――周先輩は、意に介した風はない。
「クロちゃん、そのはんぺん一人で全部食べちゃってよかとよ」
「え、あ、はい」

ふわふわと浮かぶ丸いはんぺんを何とか切り分けようとしていた黒澤に、突っ込みなんぞ入れている。友人は、理由は不明だが、眉根にえらく力を込めて注意深く白い物体を皿まで運搬していた。まさか、初体験とか言わないでくれよな、黒澤よ。

「味噌汁もあるから、遠慮しないで食べろ」

クリスマス何処吹く風と渋いメニューを出してきたのは見目先輩だった。らしいというか、何というか。漬け物まである。焼いた鳥と柴漬けが口の中で奏でるマリアージュ……まずくはないけれど、微妙だ。

全員が同じ時刻に集まっている珍しさを引けば、実際のところはいつもの飯の時間とそうは変わらないのかもしれない。
ユキは凄い勢いで皿を空にしているし、黒澤の食べ方は相変わらず奇麗だ。みなは自分の好きなものばっかり選んで食べて、東明先輩に小言を言われている。見目先輩は一人淡々と普通に食事をしていて、リンカン先輩はそんな彼の醤油皿に山葵を大量投入、リンシュー先輩はユキが取ろうとしていた大皿を慌てて取り上げて自分の分を確保。

そんな遣り取りに巻き込まれつつも、妙にしみじみとした気分で俺は彼らを眺めている。

―――――うん、楽しい。







「あーい、そろそろケーキのお時間でーす。ちゃんとみんな仕入れてきた?」

宴もたけなわ、ではないが、大抵の料理を食い散らかしたところで、リンカン先輩が声を張り上げた。素直に頷く皆を満足そうに見下ろしながら、ハイテンションで立ち上がった彼は、自分もまた頷いて、隣のユキを押しのけるようにして俺の隣にしゃがんでくる。
サンタ装束の腰のあたりにある、ポケットを叩いて見せてきた。何だ?

「とよとよ、こんなか手、突っ込んで」
「………」

警戒するのは、悪いことじゃないよな。うん、悪いことじゃない筈だ。
今までの林先輩たちの行状を考えると、中に不思議生命体が入っていても俺は驚かない。でも驚くのは厭なので、一回目は軽く拒否。少し後退ると、手首を取られてポケットへと無理矢理導かれた。

「わ、」
「…林さん!?」

肩越しに注意をしていたユキの声が、俄かに鋭いものになる。俺は首を横に振ってみせる。
掌にあったのは小さな紙片だ。中を見ようとしたら、リンカン先輩の手がぎゅっと上から俺の手を握り込んできた。

「まーだ駄目っ。…ほれ、大家はこれな」
「…なんです?」

怪訝そうなユキにも同じサイズの紙片が押し付けられる。先輩はそうやって全員に紙を配りきると、「もういーよ」と宣った。何だ?

「じゃーん、ケーキのくじ引きでーす!」

あ、なるほど。

「名前が書いてある奴の買ってきたケーキを喰いまっしょい!」
「さあ、とよとよの手作りケーキを食べるのは誰?!」

だだだだだだだだだ、と口でティンパニの真似をしているリンシュー先輩には盛り上がっているところ大変申し訳ないが、手作りケーキなんぞ作ってくるわけねえだろうが!阿呆か!

「誰が作るかぁ!」と、俺絶叫。当然である。
「え…?」

そこ!東明先輩!!なんでそんなに萎れた声を出すんですか!しかもがっくり肩まで落としている有様だ。
…そんなに手作りに飢えているのだろうか。男の手作りケーキなんて浮かれる要素は皆無だと思うのだけれど。罪悪を感じる要素は何処にも、1ミクロンたりとも無い筈なのに、名状しがたい心の痛みが俺を苛んだ。

「あー、トーメイさん、とよとよのだー」
「いーなあ…」
「…いや、落胆するな工太郎…。俺には俺の幸せがあるじゃないか。充分じゃないか、これで…充分に天国だ…」

しゃがみ込んだ林の双子を犬にするみたいに追い払うと、些か理解に苦しむ独白(多分)を零しつつ、結局、東明先輩は俺が買ってきたケーキを受け取った。中身は無難にショートケーキだ。そりゃあ手作りじゃないけど、いいじゃん、苺。うまいし。文句あるか。
やけくそになってきたな。はい、次!

「…ユキは?」
「僕?『トーメイさん』、って書いてある」

俺とユキが行った店とはまた別の、可愛らしいラッピングがされた箱がバケツリレーでやってくる。覗き込んだらチーズケーキっぽいのが入っていた。

「あまり甘くない方がいいかな、と思ったんだ」と東明先輩。っつうか、早!もうケーキ喰ってるんだけど。
「ありがとうございます」

ユキはにっこりと微笑んで礼を言っている。おそらくユキにとっては味よりも腹に溜まるかどうかが第一命題だ。もし俺のが残ったら喰って貰おう。
ユキが買ってきたショコラケーキはリンカン先輩に、みなが買ってきたケーキはリンシュー先輩に行ったのだが。



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