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俺はユキに連れられて五年ぶりに街のケーキ屋へと出向き、店員の好奇の視線を浴びながらカットケーキを1つ買った。妙な義務感に駆られて行ってしまったものの、正気に返れば若干恥ずかしかった気もする。久々に入ったケーキ屋は、白やピンクの色彩に溢れていて、カフェブースでは女の子たちが楽しそうにお喋りに興じている。
俯き顔を赤らめぷるぷるとオーダーをする俺と、幸せそうにあれこれ品定めをしているユキとはさぞかしけったいな組み合わせだったろうと思う。

みなを誘ったけれど、やりかけの作業は余程に集中したいものだったらしく、「適当に済ますわ」といつもの調子で返事があった。彼の選択は正解だったかもしれない。もし連れ立っていたら、男子高校生が三人で仲良くケーキのお買い物、なんて展開だったわけだ。
黒澤は知り合いの木工師のところへ出かけたらしく既に居なかった。それでも「また後で」ってことは、クリスマス大会とやらには間に合うように戻るつもりなのだろう。

飯の方も、ユキと折半して冷凍のピザとポテトと、スーパーで焼いた鳥を買って終わりにした。まさかオムレツや納豆を出す訳にはいかないし、ユキのレパートリーは目玉焼きだの野菜炒めだの、朝食メニューに限られている。凝った料理は出来ないし、作るつもりもない。そう言ったところ、林先輩たちは物凄くご不満そうに唇の先をとんがらせた。

「えー。俺とよとよの手料理楽しみにしてたのにー」
「納豆オムライスでもいいから今から作ってよ-おお」
「いや、それはちょっと…」

―――正直、先輩たちのサンタルックだけでお腹いっぱいです。
帰宅した俺たちを出迎えたのは、白いふわふわの縁取りのついた赤い帽子、赤い上下の服に黒のベルトを締めた出で立ちの、双子のサンタクロースだった。チェーンの雑貨店で買ってきたらしいそれは、彼らによく似合っている。先輩たち、よっぽど楽しみにしていたんだな。

「とよとよも着る?そう思ってミニスカサンタコス、買ってきたよお」
「謹んで遠慮します…」

そんなに張り切ってまあ微笑ましい、の一言で、どうか無事終わりますように。
つうか、何故、俺の場合はミニスカ限定になるのかを、納得がいくように是非どなたか説明して頂きたい。



で、午後の六時だ。

他の面子も時間の前後にはやって来て、母屋の居間から運んできた分もくっつけた二つのテーブルの上には、乗り切らないほどごちゃごちゃと食べ物が置かれていく。
定番の鳥に、ポテトに、ローストビーフ、サラダ、おにぎり、エトセトラ、エトセトラ。手作りっぽい料理もあるな、と思ったら、どうも林先輩たちは一度実家に戻って、お袋さんに作ってもらったご飯やケーキを運搬してきたらしい。そういえば家族全員お祭り好きなんだっけか。

「…おでんがある」

何やら小綺麗なショップの袋をぶら下げた黒澤が、妙な感嘆を篭めて呟いている。うん、確かにコンビニのおでんがある。クリスマスの情緒とは懸け離れているが、この季節のおでんは正義だ。

「からしは別にあるから、こん中入れるなよ。ほら」

黄色のパックをスペースにぶちまけたのは東明先輩だ。脇にみながたこ焼きだの焼きそばだのお好み焼きだのを並べている。何処かで見たような代物に某クラスメイトの顔が浮かぶ。例えばあいつを呼んだら収拾の付かない展開、間違いなしだ。

「悪い、遅れたな」

制服のスラックスにシャツ、上からセーターを来た見目先輩が現れて、これで、全員だ。



「じゃ、」
「かんぱーい!!」



グラスをがつん、とぶつけて、酒の代わりに烏龍茶とオレンジジュースで乾杯となった。
俺も思わずしっかり声を上げてグラスをかかげてしまった。やばい。ちょっと楽しいかも。
即席でやることになったクリスマス会は、純和風の家で、しかもむっさい男所帯だけれど、これはこれでいいもんだ。
うちは男ばっかで、しかもお袋が死んだ後はクリスマスなんて大仰に祝わうこともなかったから、人が集まって騒いでいる光景は何だか新鮮に見える。兄貴と親父、今年はどうしているんだろう。親父は何とかやり繰りして兄貴の居る東京に行くって言ってたけれど、ちゃんと休み、とれたのかな。



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