(12)
見目が後輩を抱きかかえ立ち去る素振りを見せたので、慌てて引き留める。が、当然とばかりにガンを付けられた。うっ、急所に漏れなく刺さった感じがするぜ。できるな。
「本っ当に無理矢理じゃなかったんだかんな。俺らだって幾ら好きでもそんなことしねえし」
「…そんなことはどうでもいい」
―――何ですと?
いや、和姦はゼッタイ大事でしょ、と言い募る俺から顔を背けた奴は、両腕に体を預けている後輩を見下ろした。太い眉をぎゅっと寄せ、いつもは人を圧倒するような気迫を持った目が沈痛そうな色を湛えている。
「責任は俺が取る」
「お、おい、ちょっと見目、コラ!」
「いいな、30分だ。俺は斎藤を連れて部屋に戻る。大江や…他の連中には適当に言っておけ。もし、余計なことを言ったら―――」
怖いからそこで区切るんじゃねえよ!
「…お前に元旦は無いものと思え」
ドスの利いた声で言い放ち、抱えている人間の重さを全く感じさせない動作でミメはすたすたと歩いて行った。水場から一番近い角部屋の扉が開き、ぴしゃり、と閉じた音がする。
ちょ、斎藤の部屋じゃなくて自分の部屋かよ、見目てめえ!世界はそれをお持ち帰りと呼ぶんだぜ!
「ウンウンビウム、レントゲニウム…」
「環−、頼むよ−、正気に返ってくれよー」
きょうだいはべったりと崩れた正座をしたままで、どっか明後日の方角を見ながら延々と呪文を唱えている。揺さぶっても声を掛けても、まともな反応がない。とんでもなく重症だ。
ちょっと、いや、大分ムカツクけど、ここから移動するためには見目の部屋の前を通るか、ぎしぎし言う階段を降りるかしないとあかん。噴火したばっかのミメを刺激しても、良いことなんてあった試しがない。環もドカンしちゃったし、しょうがないので相方の隣に体育座りをして、膝頭に顎を埋める。
誰が正座なんてするかよバーカ。
とよとよにじゃれている時はちっとも感じなかった寒さが突然に戻ってきた感じに、自分の足を両腕でぎゅっと寄せてみる。風が水場の窓をガタガタと揺らす音、環が唱える化学魔法だけがしん、と冷える廊下に響いていた。
「…ちょっと萎えてきた、かも」
今までも結構触ったことはあったし、ハロウィンの時だって直に肌に触ったこともあったけど、多分、今回はいちばんだった。熱に浮かされたガラス玉の目。上気したからだ。味なんてするわけもないのに、肌は甘い。
あれだけでも、きもちよかった。ヤったら絶対に、もっとよかったのに。とよとよだって。泣くことなんて、なんにもないのに。
(「おれは、なんにも…感じ、ないから。…つかいものに、なんない、」)
触れる許可を下した後、彼の口から零れた言葉。俺らに聞かせようとした、よりかは、自分を嘲るみたいな声だった。あんな風な声も、台詞も、言わせたくなかったから、俺ちょっと頑張ろうって思ったのにさあ。
「あー、…好きって、言って貰えなかったなあ」
未だ不服そうに下着を突き上げる息子を宥めながら(環の呪文は意外な所で役に立ちそうだった)、床に転がしたケータイの液晶を眺めることにする。
30分は結構長いな−、ミメに言ってちょっとオマケして貰おうかなーなんて、思いながら。
>>>and to go…
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