カレイドスコープ



(月下)


スパンコールに似た、様々な色合いの断片が僕の中でダンスをしている。それは、人の声であったり、切り取られた光景であったり、感触、温度、僕自身が感じた想い―――とにかく、色々だ。
保身の為、殻に閉じこもっていた時間。そこから足を踏み出して得た、やさしさ、辛さ。痛み、おぞましい快楽。欠片は表、裏と照り返りながら、巡る。


『僕には見えるんだ。人と、人とが、繋がっているさまが』


幼いころ、誰かの足首に絡まっている赤い縄を見て驚いたこと。話しても、皆信じてくれなかったこと。それが天与の才だと思い込んで、目に映る他人の恋情―――秘されたものも、明らかなものも―――を、盗み見し、時には人の耳に流した。


『月下ならわかるんだろう?中学んとき、気持ち悪いくらいよく知ってたじゃねえか』
『情報屋。…あれ、もうやめちゃったの?』

すべて、己の満足感を充たすためだけの行いだった。愚かさに気付いた頃には既に遅く、蛇のように這い回る「糸」は僕自身の足に噛みついたあと。

体中を巡る、まさに毒だ。

校外研修、一緒に摂る昼食。ありえなかった、日常の、ささやかな会話。
好きなひとと距離が近付くたび、浮かれて、…すぐさま恐怖した。これは糸のちからなんだろうか、ただの偶然なんだろうか?僕の好意を知った相手に軽蔑されるかもしれない(だって、僕はそもそも男だし、彼は僕のことが大嫌いだったから)。でも、赤い糸さえあれば、それを無視して彼と繋がれる可能性もある。

繋がる?繋がるってなんだ?僕はどうしたいんだ。


僕はどうしたいんだ?



『君を信じるよ、月下真赭』


白柳。黒く、灼けた縄の持ち主。突飛な話をしても、受け入れてくれた。向き合って、会話をする。挨拶。傍にいて、笑って、触れあうこと。
忘れていたふりで、ほんとうは、喉から手が出るほどに欲しかったものを、甘く、あたたかな雨みたいに降り注いでくれた。君の向ける言葉が、行為が、ときにどんなに鋭いものでも僕は、平気だった。悪意がないのだと知っていたから。



『お前といると、オレは自分がわかんなくなるよ』
『落ち着いたんなら何か喰っとけよ』


…久馬。
殻を被っていた間も、その裂け目からずっと、君の姿を追っていた。遠くから見ているのなら罪にならないだろうと、自己欺瞞の、新たな殻を作って、糸の強制力に流されるがままに彼の影を踏んだ。

何故ならそうすることを、他ならない僕自身が希んでいたからだ。


『そいつはオレのことが好き。でもって、オレもそいつのことが好きだ』

君の、あの嘘と、助けに来てくれたことだけでもう充分だ。

顔を見るだけで心拍数が上がったし、いつだって、声のする方向へ全神経が引き寄せられる。「赤い糸」がまったき倖せを保証するものではないのだと気付いたときから、ひとと触れあうことを避け続けた、こんな僕が。
誰にも渡したくない、自分だけを見ていて欲しいと願うほどに、久馬を好きになった。
あんなに嫌悪した糸のちからにすら、縋りたいと思うくらい。君が好きだ。言葉の貧しさ、感情を伝える能力の乏しさが憎い。




―――ずっと、君が好きだった。






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