エクソダスU




脱いだシャツの、汚れた部分をなるべく内側にしまいこんで、月下の身体を拭いていく。

「痛って、」

腕を動かすたび、ぴりっと全身に痛みが奔った。一番気になっていた左の足首は落ち着いているけれど、肘とか肩とか洒落にならん。必死に腰振ってたときは何処かにふっとんでいた感覚だ。苦笑しか出ない。ほんともう、猿かよ。

一方、オレとは別の意味で満身創痍な月下は、倖いにして、怪我らしい怪我はほとんど無かった。ハコが弄んでいた紅い窄まりと、オレが駄目押しをしたちんこの先が心配っちゃ心配だが、触ってどうにかなるもんでもない。なので、後回しにする。
部位によっては時間が経ちすぎて、ぶっかけられたピンクの粘液が固化している。応急処置で水でもありゃいいんだが、と見回すと、都合よくミネラルウォーターの入ったペットボトルを発見した。ひとつは空で、…お、まだ中身が入っているのがある。見た途端に喉が渇きを訴え始めた。キャップを開け、少しだけ口に含む。後はシャツに含ませて、目立つ汚れを拭き取った。

それで気付いちまったんだけど、机のあたりに散乱しているいかがわしいブツの数々、一体全体どうすりゃいいんだ?
使う気があったのか問い糾したくなるが、ゴムの箱。あとはもこもこした手錠、数珠つなぎになったピンク色のボール。各種取りそろえてございます、といった具合の棒は、細い金属製のものから、プラスティックとおぼしきうねうねしたやつ、シリコンの、いぼのついたものまである。それから太さが違うディルド。鮮やかな色の液体が入ったボトル。

「……」

…いらんがな。

「ハコのやつ、店でも開くつもりかよ…」

オレが今必要としているのは、服だ。出来れば月下自身の制服がいい。だが、見つかったのは革靴だけ。スラックスもジャケットもない。
何もしていないよりはまだマシ、くらいに奇麗になった彼を跨いで、あたりを確かめる。怪しい小道具は少し考えて、机の、一番でかい抽斗に突っ込んで置いた。すると、椅子をしまう空洞の奥に通学鞄を見つけた。

「よしよし」

おお、これだよこれ。分かってんじゃん。
引っ張り出す。ジッパーを開ける。教科書とノートしか入っていない。…脱力した。
ノートをぱらぱら捲って、筆圧の薄い頼りない文字を発見。役には立たないが持ち主が判明したのでお持ち帰り決定だ。

で、だ。

命題はふたつ。ひとつは月下の制服はどこへいっちまったのか。それが無い場合、下半身もろだしの彼と、素肌に黒いベストを纏った往年のアイドルみたいな服装のオレとは、如何にして帰るべきか。非常にあほらしいが、逼迫した問題ではある。

振り返って、三つ目の障害にぶちあたった。

「改めてボコるの決定だな…」

立つ鳥跡を濁さずっつう昔の人の偉い言葉を知らんのか、白柳め。もう幾度目か思い出せない奴への悪態が、また増える。後足で砂を掛けるがごとく、濁しまくりじゃねえの。
扉を塞ぐようにして積もった本の山。棚ひとつと半分の量だ。
昏倒する彼の隣で、寝転がりたい誘惑に駆られた。…ひとそれを現実逃避と呼ぶ。




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