エクソダスT



(久馬)


―――いやあ忍君。一体全体どうするつもりなのかな?

(「…どうするもクソもねえだろうよ。とにかく此処を出るんだよ」)

―――でも月下は気絶しちゃったよ?しかもやらかしたのはお前自身じゃん。

(「うっせえよしょうがねえだろ!やっちまったもんは!世の中には汚名挽回っつう言葉があんだろうがよ」)

あれ。汚名って挽回するんだっけ、返上するんだっけ?撤回?いかん、ど忘れした。

「…と、とにかく、…おし…」

以上で第五千三十八回目、自分会議終了。心の声が微妙に白柳チックでムカツク。実際あいつにそんなこと言われたら、始めの一言で拳を飛ばしているぜ。

オレの辞書に後悔の文字は基本的にはないのだが、最近若干撤回気味だ。ぐったりと力を失った月下を固い床へ降ろし、深く深く溜息を吐いた。やっちまった。しかも途中から記憶があやふやだ。最中、結構きわどい発言をしたような気もするし、厭だ、と抵抗する彼を問答無用で弄くり倒していたような気もする。つまり非合意ってやつ?

「それってゴー…」

いやいやいやいや。今ここで自分会議・後半の部を開会したところで、オレが落ち込むだけで他に何も益はない。汚れまくったシャツを脱ぎ、満足したらしき息子を拭く。感情はともかく、あっちの方はすっげえスッキリしていて、凹み加減は倍増しだ。客観的に見たら相当間抜けな眺めだし、この満足感も正気に返れば頂けない。ったく、十和田レベルかよオレは。
だらしなく腿まで下がったスラックスを引き上げ、社会の窓を閉じた。

さて。

「…何つうか、まあ…」

コンクリートの上で白い痩身を晒す彼の体躯は、壮絶に卑猥だった。どんなAVも、妄想も太刀打ちできないほどの代物だ。致していた時分も感じた気がするが、リアルははんぱねえな。
手首や足首に色濃く残る赤い縄の痕、鮮やかな色で勃ち上がったままの乳首。めくれあがったシャツの合間に除く陰茎は、度重なる射精で流石に縮こまっていた。穏やかな呼吸を繰り返す腹と、下肢の薄い毛にはべったりと白い唾がまとわりつき、それは静脈の浮く二つの脚の間をも穢している。学園のエンブレムがついた靴下は埃と怪しい粘液で変色していた。固く閉じられた双眸、反対にうっすらと開いた口脣。

「…、」

ごめんな、なんて、白々しい。
性器に見立てて欲望をぶちまけた箇所を見るにつけ、未だオレの中でもっとだ、と騒ぐ貪欲な自分がいる。いやもう、マジねえだろ。気絶してんだぜ?しかもこんなに弱ってんのに。ミイラ取りがミイラになりました、じゃ済まされねえっつうの。
ハコに対して怒髪天だったときは、これを上回る行為に奔ろうとしていたのだからぞっとする。狂気は、正気の双子だ。部屋を立ち去った友人が知らしめたかったのは、もしかしたら、そこだったのかもしれないと、不意に思った。
誰の中にも種子みたく埋まっている感情。そして、誰しもが持ち得ているということが、決して免罪符にはならない感情だ。


『究極的には、真赭が壊れても…死んでいても、平気、なんだけどね』
『俺はほんとうに好きな相手のことを、こういう風にしか扱えない』


言い放ったときの、白柳のツラ。恐ろしいくらいに真面目だった。

「なんつうか、あいつは本当に難儀だな…」

友人を殺人犯にせずに済んで良かった、と納得するしかない。
息苦しさはつきまとうものだ。ハコにとっての倖いが別のところにあったのだとしても、是非モヤモヤを抱えたまま倫理の枠の中で生きていって頂きたい。何と言っても、あいつは友達だからな。鉄格子だかアクリル板の向こうからコンニチハだなんて冗談じゃねえ。



- 88 -
[*前] | [次#]


◇目次
◇main



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -