飽和V



どうして、と聞きたくて、でも聞こうとする前に声はすべて嬌声に変わってしまう。
挿入されていなくても、半ば屹立したそれが菊座を擦るたびに、痺れるような快感に襲われる。
あのピンク色をした液体と、考えたくもないけれど、僕自身の精液が尻のあたりをぐしゃぐしゃにしているのだ、塗り広げるように下から突き上げてくる久馬の、そこもきっと汚れているだろう。
見えない部分を想像しては淫らな気持ちと恐怖、両方に囚われる。激しい動悸が胸だけじゃなく、頭までも叩いているようだ。

彼は、ほんとうは僕を捨てて立ち去るべきなんだ。
それなのに、もっと強く、こすりあげて、抉って欲しい、と思ってしまう。あさましいと己を卑下している時はまだ余裕があった。今の僕はもっと、とねだろうとしている。刺激されて過敏になっている襞がひくついているのだって、分かる。
そこに、他人の昂ぶりを受け入れたことはまだない。
僕にとって性的な触れ方をし合ったのは白柳が初めてで、でも、彼ですら最後に引かれた線を越えることはしなかった。

僕がうんと頷くまでは、と。
月下がいいよ、って言うまでちゃんとするのは取りあえずは待つからね、と。


「厭、だよな。…は、ほんと、マジで悪い…。ごめん」

記憶の中のやわらかな声に、現実の、久馬のそれが上書きされてはっとなった。
腰を掴む大きな掌が熱い。呼気もだ。こんな謝り方は久馬らしくないし、何より、(おそろしいことに)僕は彼にこうされることがいやだとは、思っていない。ただ行いの原因が分からなくて、混乱しているだけだ。

「ちがっ、や、やっ、じゃないっ…!」

途端に、男っぽい美形がくしゃりと歪んだ。暗い室内の中でも表情の変化が分かるのは、それだけの時間と注意をもって見つめていたから、だろうか。
腰をひかれて、接触がより深いものになって、僕は鼻を鳴らした。ぞっとするような音が、鼻腔と開きっぱなしの口から漏れる。
影がゆっくり被さってきて、背にぱさりと彼の髪が垂れかかった。鼻梁を擦りつけられることにすら、感じた。

お前はな、と、彼は言う。

「あのバカにはめられて、ちょっとおかしくなってるだけなんだよ」

ゆさ、ゆさと、揺り動かされていたのが、止まる。それでも、アヌスを埋める格好になった、勃起したものはどかない。
背中に頭が押し付けられていて、顔が、見えない。
彼がどんな表情で僕に語りかけてくれているのか、知りたいのに。

「でもオレはまだ、自分のしようとしていることが分かる。…本当は、そうするべきじゃないってこともだ」
「…ふ、あっ?!」

腹に回っていた手が、下からペニスをやさしく撫でた。また扱かれるのか、と、緊張と―――期待で強張る僕を余所に、それは痩せた太股へと遷った。緩んだ股座をぴたりと合わせるように、両側から押さえつけられる。

「あ…、な、なに…?」

支えを失った上半身は完全に床へと伸びきった。覆い被さっているとは言え、久馬はこちらにほとんど体重をかけていなかったが、僕自体はそもそも、肘を立てる力すら無くなっていたのだ。
目の前には色々なものが散乱していた。液体と塵に塗れたくだんの玩具もあった。空のボトルに、パステルピンクのコードがついた小さな機械。革靴。それに縄。さながら、趣味の悪い題材を取った静物画のようだった。

「…お前はオレを軽蔑していい」







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