飽和T



(久馬)

細くて薄っぺたい、男の身体だ。基本ついてるものや足りないものはオレと同じ。その筈なのに、無性に触りたい。反応がみたい。オレが施す行為で、彼がどう変わっていくのかが知りたい。

「は…、あ…?!」

俯せに転がした月下の胴体をするりと撫でる。背は弓なりに湾曲し、シャツの裾からはたっぷり濡れた股と、ふるふると震える尻が丸見えになった。女のやわらかさはないけれど、肌触りは悪くない。

オレ本来の好みからすれば、胸とか尻とかに肉ついてる方が良いに決まっている。なのに、触れて探った下に肋骨だの、まるく浮き上がる腰の骨だのがあると分かる、それらが興奮を誘う。欲動に煽られるがまま、シャツの中へ手を忍ばせ、幾度も往復させた。胸から脇、下腹。勃ち上がったままのちんこも軽く擦ってやる。性器の先は相変わらず、ひたひた涙を零しながら彼の平たい腹へ頭を向けていて、袋の直下の皮はこれ以上ないくらい、ぴんと張り詰めていた。健気な反応が可愛くて仕方がない。

…この思考は末期だ。誰の指摘が無くても分かる。

で。

末期ついでにとことん悪役に徹することにした。断じてシュチュエーションにはまったわけじゃない!

「…手伝ってやる。…その方が絶対早いし、確実だろ」

オレに弄くられて、一体何回射精したよ。触られなくても出したじゃん。そう、直截な物言いをすると、ひたすら喘ぐだけだった月下の声にしゃくりあげるような響きが混ざり始めた。けれど、どうしたって甘い。罪悪感を溶かすほどの甘さだ。

「あっ、やだ、…そこは、んくうっ」
「――…」

飲み下す唾の音のやかましさ。覆い被さって密着しているから、きっと月下にも聞こえているに違いない。その証拠に、敷いた痩躯はびくりと反応した。

大体さあ、こんなおっ勃てといて、今更自分で抜きます、はねえだろ。しかも、オレがさっきから延々と弄くって遣っているのに、収まる様子なんてちらともねえし。バッカじゃねえの。どうしてこの期に及んで一人で片付けようとするわけ。いや、オレの言動だって負けず劣らずバカなんだけど。
赤信号、皆で渡れば怖くないってのはデマだ。車にはねられることになんら変わりはない。
だが、しかし。どうせグダグダになって堕ちるなら、お手々繋いでってのも悪くない。

「やああっ、んん、」
「…へえ。…こういうのも、感じるのか」

小さな乳首は硬くしこっている。指で身体の輪郭をなぞるたびに、尖ったその場所がひっかかる。かり、と掻いてやると、スイッチが入ったみたいに、背がしなった。

「う、んあ、いやぁ…っ」

床へ片頬をぺったりとつけた彼の顔は、涙と涎に塗れながらも恍惚としている。首の根元や、コンクリートへ爪を立てる手首には赤く腫れた縄の痕。太股にもある。全身を使って誘っているようだ、と思うのは、襲っている側の願望でしかないんだろう。
頽れている月下とは対照的に、オレの身体の内外は乾ききっていた。無意識にかさついた口脣をぺろりと舐めると、妙にぬめった感触が舌についてきた。

「…甘…」

口腔にねっとりとした人工的な味が広がる。きわどい色の、駄菓子みたいな味がする。…うお、なんじゃこりゃ。

(「…ま、いっか」)

訝しく思う一方で、彼を慰める手はまるでオレ自身の統制から逃れたかのように動き続けた。触れられるところは一通り、触った。残すは、先ほどまで玩具を咥え込んでいた、赤く熟れた後孔だけ。

「…なあ、月下…」
「あ…!」

ぐ、と上体でもってのし掛かっていく。腕を回して腹から支えて遣っているから、月下が完全に潰れることはなかった。それでも相当なプレッシャーだったのか、彼は余計に腰を突き出すような格好になってしまった。
必死に首を捩ってこちらを見る、目眦は紅を刷いたようで、潤みっぱなしの瞳は黒々と濡れている。それを食い入るように見つめながら、もう片方の手指で胸板の中心から臍へ移動し、薄い下生えをくしゃくしゃと掻き回す。タマをやわらかく揉んでやった(彼の口からは婀娜っぽい悲鳴が上がった)後で会陰を、それこそナイフで切り開くように爪先でたどってやった。オレの手を濡らすものの正体を知っている。口角が吊り上がる。

「お前、その内ドライでもイけるんじゃないの」
「ふ…、わっ、わかんな…」
「…ふうん」

肝心の場所が何処か、なんて、クソ柳の教材DVDで見せて貰ったからな。腹立たしいが、既に予習済みである。

「…じゃあさ、ちんこシコられるのと、こっち。どっちがいい?」

ひくつく蕾の周囲に指が到達した瞬間、抱え込んだ体躯がびくびくびく、と痙攣した。

「…!」
「はッ、あッ、ああ、――…ッ!!」

別に指を突っ込んじゃいない。寒天状の、怪しい液体をぶっかけられた襞は、中心に従うにつれて呉藍の色を濃くし、外縁は仄かなピンク。少しでも養分を取り込もうとしているみたいに収縮していた。そこを突いてみただけ。電気を流されたかのような反応に、あの光景がフラッシュバックした。

グロテスクな男根の玩具を受け入れて身悶えていた彼。
獣の交尾の体勢で犯されていた男優。

「ふっ、うっ、あ、は、」

腰をがくがく震わせながら、快感の余韻に浸る身体をしっかりと抱き締める。視線を感じる。おそらく月下は、まだこちらを見ている。シャツ越しに分かる肩胛骨の間に、オレは頭を押し付けた―――それから、自分の下半身も。

「…きゅうま…」

都合の良い幻聴の極致だ。
いやだ、と拒絶の言葉をはき続けた彼の声もまた、オレと同じく、乾ききってきこえる。



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