融解]




気持ちがいい。苦しい。熱い。我慢なんて欠片もしないでもっと大声で喘いだら、きっと楽。尻の穴がひくついている。久馬にあそこをいっぱい触って貰って、射精したい。
彼が少し触るだけで自分でそうするよりも何倍も気持ちよくなれる。好きなひとにされる、ということが、こんなにも恐ろしく甘美だとは知らなかった。
それらは、僕の欲求であると同時に、最後の理性でもって押し留めている、絶対にしちゃいけないことのすべてだった。

身体を丸めることで火のついた性感を抑え込めるかどうかは定かじゃない。それでも、堪えようとすればするほど僕の背は曲がり、床に膝をつく彼の脚へ鼻先を押し付ける結果になった。
あくまで反応を見るためだったのか、じきに久馬の手は止まった。実に当然だ。
なのに、僕は惜しいと思う。その心根が厭だ。恥も外聞もなく、ぐちゅぐちゅペニスを弄くりたい。汚穢に塗れた口脣の端は今、吊り上がってはいないだろうか?

「きゅ、ま」
「…おう」

久馬の声はどこまでも力強く頼もしい―――君が助けようとした男が、何を企んでいるのかも知らないで。
僕は自分のあさましい欲を正当化しようとしている。すべて吐き出して落ち着いたら、きっといつも通り動けるようになるし、話が出来る。窮地を救うために僕のことを好きだ、などと、馬鹿げた嘘までついてくれたひとだ、もう少しだけ猶予をくれるかもしれない。

「僕、な、…何とかするから。だから、先にここを、出て…」

はやく―――早く。
そうしたら、君のいないところで、見えないところで僕は自分の思うが侭に淫慾を貪る。この期に及んでなお、小ずるく立ち回ろうとするのは君が、好きだから。これ以上、嫌われたくないから。…何より、楽に、なりたいからだ。
だからもう、僕をひとりにしてくれ。

「………」

僅かに目を瞠った久馬は、こちらへ視線を据えたまま、くっと引き締めていた口の一文字をさらに険しくさせた。僕の肩へ手を掛け、俯せにする。肩胛骨のあたりに力が加えられて、上半身がべったりと床についた。乳首がコンクリートに擦れてむず痒い。
一連の動作は、体育の授業でする柔軟の介助のように手早く、何の躊躇いもなく行われた。僕は、えっ、と一声上げたなり、腕立て伏せ失敗の典型みたいな体勢になっていた。


「―――月下、お前ほんとうにバカな」


低くて真面目で、…興奮を押し殺した声。どうして、気付かなかったんだろう。


「手伝ってやるよ」


耳に吐息が触れる近さで、そう久馬が囁いた。





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