融解\



(月下)

「…ふ、はっ」

押し倒されて、キスをされた。
慰めるようにペニスを扱かれた。

「ふあっ、やっ、やめろ、ひ、あ、…いやあっ!」

なんなんだよ、と呟く声は低く、不可思議な苛立ちに充ちていた。

僕を放り出すチャンスは幾らだってあったのに、彼はそうはしなかった。どころか、淫蕩に悦ぶ性器を育てるべく、自ら手を伸ばしすらしたのだ。
いやだ、と口先だけで抗って、賤しい僕は、股を開いた。平たい胸を撫で回されてよがり、喘ぎまくった。

久馬の目つきの何処にも嘲りや侮蔑の色は無い、およそ場違いな表現だけれども、真面目そのものだった。まるでこちらの反応を確かめるように―――より強い快楽を引き出すように、彼はせっせと働く。舌を噛む、口脣のきわを舐める、尿道口に爪を立て、吐精を促す。そのたびに、久馬の煤けたスラックスへねばついた精が散った。勿論、僕の出したものだ。
奇麗にするどころか余計に汚している、比例して感情もぐちゃぐちゃだ。子どもみたいに泣いて、わめいて。級友はそれを大した力も掛けずに封じて込めてしまう。そうして、また、僕へ触れる。

(「―――…久馬?…久馬?」)

彼自身の体躯の所為で、翳ったその双眸を追う。久馬が何を考えているのか、知りたいその一心だった。
幾度絶頂を感じても、少しの刺激でペニスはまた、首をもたげた。白柳が玩具を入れていた後孔も、じんじんと疼いている。ボタンがどれだけ残っているのかも怪しいシャツ一枚を引っかけただけの格好で、好きな―――同性の、相手の前へ裸身を晒している。痩せた、何の魅力もない、痣の浮いた身体を。そうこうしている内に、まったく収まらない熱に焼かれて、思考は加速度的に鈍っていく。

「…お前さ、白柳に何か飲まされたりとか、しなかった?…あ?水?フツーの?」

聞かれたことに諾々と答えるのは、凄まじく楽だ。容赦のない問い掛けに、ひいひいと喉を鳴らしながらも返事をする。
水は、飲んだ。ペットボトルの水。白柳の精液と一緒に飲み下した。

「―――このピンクのでろでろ、何だよ。体中塗ったくられてっぞ」

同じものが久馬の顎とか、首筋にもついているように見える。彼も気になるらしく、しきりと擦っている。


「…あのさ、催淫剤、って意味分かるか?」


サイインザイ。

咄嗟にどんな漢字を当てるべきなのか思い浮かばずに、取りあえずは、胎の奥から押し寄せてくる快感の波を耐えた。もう何度目か、数えるのも放棄している。
いつもだったらすぐに分かるし、今でもあとちょっと考えれば久馬の話していることが理解できる、筈だ。でも、それが億劫で仕方がない。一秒前よりも格段に頭の回転がのろくなっている。


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