融解[



「月下、さっきから何回出したとか、覚えてっか?」
「…っ、」

彼はぎゅっと目を閉じたまま、頭をぐりぐりコンクリートへ擦りつけた。そりゃそうだよな、それどころじゃなかったもんな。
放っておくと延々と扇風機みたいに首を振っちまいそうだったので、流石に止めてやった。下肢へ視線を遣ると、俺が手を放してもゆるく勃起したままの、月下のブツが。動悸、息切れ、頭痛、またはスリル、ショック、超展開だ。

ハコめ、大方こうなるって読んでたんじゃねえのか。だよな。だってこれで、あいつが美味しく頂く予定だったんだもんな!?

「あのさ、催淫剤、って意味、分かるか。…今日だけじゃなくて、こういうの、使われたことあったりする?」

努めてゆっくり、優しく喋り掛けてやる。我ながら若干気持ち悪いけど。その甲斐あってか、月下は素直に喋ってくれた。

「無い、と、思う…っ、たぶん…。こんな、は、変…」
「そ、っか」

思わず、はあ、と安堵の溜息が出た。薬漬けなんて洒落にならん。それこそ、ウェルカムトゥー十和田ワールドじゃねえの。勘弁しろよ。
良かった。いや、良かったっていうのは、早いか。
聞きたくて、―――でもずっと聞けないことがあるから。主に俺が納得したいからっていう、自分本位な、感情的な質問。

(「ったく、催淫剤とかって。お前ら一体どこまでヤったんだよ」)

夫婦生活におけるマンネリ打開!とかならハアそうですか、ってなるが、倦怠期には大分早くね?付き合ってまだ何日とか何週間とかってレベルだろ。

今は月下を問い詰めてる場合じゃねえんだって、分かってる。分かってんだ。だから、そこは蓋をしておかなくちゃいけない。後回しにするんだ。だって、やらなきゃいけないことは他にある。

大丈夫だ、と言うように、―――俺自身へ言い聞かせるように、すっかりごわついてしまった黒髪を撫でる。そのたびにシャツがめくれて露わになった脇腹がひくん、と波打つ。

「ふ、っく、ん…っ」
「…悪ぃ。…キツイ、よな」

男の悲哀というか、文字通り急所というか、こんなんじゃまともに歩くことだってままならない筈だ。
負ぶっていくのもやぶさかじゃねえけど、下穿き穿くだってしんどいだろう。
幾ら放課後とは言え、下半身丸出しで廊下を練り歩くわけにはいかねえし。生活指導の教師とかに見つかった日には、目も当てられん。月下自身は、白柳を吊るし上げたいとは思ってないみいだからな。

単純に考えて、反応しなくなるまでシコるか、萎えるネタの降臨を待つあたりが妥当な線だと思うんだけど。…月下の萎えネタがなんなんだか、想像もつかない。勢い余った俺がキスしても、あそこはしっかり勃起してた。マジでこいつ、俺のこと好きなのな。

「…どうすっかなあ…」

膝を折った俺へ、胎児みたいに丸まって身体を寄せている様は、恐ろしいまでの無防備ぶりだ。
初めは、確かに羞恥があった。でも時間の経過と、俺のウッカリ(と、いうことにしておいて欲しい)の所為で、恥じらいは快楽に征服されている、ように、見える。

まさかと思うのだが、恥ずかしいことすら、…気持ちいいのだろうか。ったく、同級生調教すんなよな、クソ柳め。

「きゅ、ま」
「あん?」

頭上で百面相をしていたら、霞の掛かった目つきがぼんやり見上げてきた。
にじにじと内股を擦り寄せようとして、却って自ら刺激しちまったのか、また小さく悲鳴を上げている。なんだこの最終兵器は。据え膳どころか据えフルコース。

「ぼ、僕、その」
「…おう」
「その、あ、あのっ…、」
「……オイ、」

まさかこのトンデモシュチュエーションで小難しい話をおっぱじめようってんじゃねえよな、月下。空気の三大用途は吸う、読む、着火補助だが、今は吸うか読むかだけにしておいてくれ、頼むから。

「ち、違くて、僕、な…何とか、するから」
「…は?」
「なんとか、する、から…、だから先に、ここ、出て」
「あ?…はあ?!」
「先に、…はやく」と彼は、重いであろう舌を懸命に動かしながら懇願する。

白い喉を晒して、涎を垂らして、涙だらだら流している癖に。俺がちょっと触る度、世にもあわれなほどに、感じ入ってみせる癖に。

「…もう、いいから。…僕を、ひとりに、してくれ」


―――そんなことを、言う。




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