融解U




(「…熱が出たっておかしくねえか」)

幾ら空調を効かせてあると言っても、季節は初冬だ。その中で薄手一枚というのは、些か寒すぎる。しかも、妙な薬を使われるわ、縛られるわ、身体の内部を弄くられるわで体力は相当に低下している筈だ。元よりそのつもりはねえけど、やっぱりここに長居は無用だ。

「掴まれよ。取りあえず、ちょっと立てるか?」
「…あ、ああ、…っ、ごめん…」

何処かに背をもたせられないか、と辺りを見回したが、生憎と本棚にも机にも、半端な距離だった。椅子にいたってはキャスターをこちらに見せて転がっている。なんてこった。

「勘違いすんなよ。離れろって言ってんじゃねえ。少し壁にでも寄りかかって…、二人してずっと座り込んでるわけにもいかねーだろ」

断りおいたにも関わらず、月下は妙に慌てた風で離れようとしていた。一体、何を焦ってるんだ。そんな体力が残っているようには全く見えないんだがな。
案の定、見下ろした両の足は膝が抜けそうで、かろうじて立っているというざまだった。
出掛かった溜息を噛み殺す。…無意味な努力はすんなっつうの。ここにはもう、お前を脅かすものは何も無いのに。

しっかたねえなあ。
口で言っても素直に従うとは思えず、実力行使に出ることにした。

離れかけている体躯を押しとどめると、く、とも、う、ともつかない呻きを月下が漏らす。どうにも顔は俯きがちだ。多分、頭を支えるのも億劫なのだろう。

「おら、無理すんな。悪ぃけど、…いいか」
「…えっ」
「よっ、」

相手の脇の下へ腕を差し込んで抱きかかえようとした。壁に寄りかかって、オレが服を取って戻ってくるまで待って貰おう。そのつもりだったのだ。


あ、と。
悲痛で、――――それでいて甘い声が、オレの耳膜を貫いた。

「はッ、ふあ、んっ…!」
「―――っ?!」

ぶる、と月下の腰が震えた。視覚で認めたものではなく、あるいは、密着した身体から伝わって悟ったのかもしれない。オレは月下を見て、彼は、オレを見た。ハコの影響下にあったとき以上の絶望が、黒い双眸を彩っている。

「あっ、あああ、う、イヤ、厭だ―――!」

オレに縋っていた手は自らの顔へ。爪が皮膚を自傷せんとする寸前、何とか押さえつけることに成功した。が、手首は狂気じみた力を孕んで、オレは月下を掴まえたまま、凄い勢いで引っ張られた。

「お、おい、月下ッ!!」


本当に、一瞬のことだった。


「ふっ、く…」
「―――…・・お前、」

すぐに抵抗は失せ、立ち上がり掛けていた彼の膝が折れた。万歳の要領で手首を吊られた体勢で、伏した面からは嗚咽が漏れ出す。

「ごめ、ごめん…、っう、ごめん…!」

厭だ、僕は汚い、だから離してくれ。ごめんなさい。
謝罪と、己を罵る呪詛とが涙声で繰り返される。時折、抗いを思い出したかのように腕が揺れたが、絶対に離すものかとより強い力で握り返した。

白柳との格闘で、オレのスラックスはすっかり煤けていた。そこへ、どろりと糸を引く白濁の糸が垂れている。


唯一身体に纏うシャツを持ち上げて、月下の牡は赤く勃起していた。




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