les deux W
(月下)
―――まともじゃないんだよ、俺は。
まともじゃない?どこが。…もし、同性愛を指してそう言っているのであれば、僕だって同じだ。
(久馬のことが、こんなにも好きなんだから。それに今のご時世で、ゲイやレズビアンを「まともじゃない」というのは、少し時代錯誤なんじゃないのか?)
違う、…俺は、多分、独占欲が異常に強すぎる。
どくせんよく。
うん。
相手を手に入れるためなら、例えそのひとの意思を奪うことだって厭わない。他のものなんて気にする必要はない。囲って、守ってあげる。余計なことで思い煩わせたり、しない。そういう独占欲のこと。
えっ。
意思を、奪う、だって…?
(…出来るのか、そんなこと。大体、その人間の心は何処に行くんだ?
それは、まだ『そのひと』だって言えるのか?)
真赭は、…この足についている糸が黒い、と言ったろう。
ああ。
(今でも、黒い)
だから俺は君を信じた。
もし、ひとの縁を司る神がいて、俺のありようを知ったら「独り善がり」だと罵るだろうね。誰も相手をもたない、焼けた、黒い縄、なんだろう?
……。
自分が誤りだとは思わないよ。一般論としてどう判断されるかは、分かっちゃいるけれども。でも、俺には彼らが倖せそうに見えて仕方がないんだ。
オフィーリア、それからトランクの青年。ほんとうの安らぎ。眠り。真赭が希むなら、いつでも与えてやれる。
―――はこ、やなぎ。
…さあ、逃げるなら今だ。すぐ教室に走っていって、久馬に泣きついて御覧。うまくいけばシカトするの、止めてくれるかもしれないぜ。
僕に、そんな勇気が無いってことを。
僕の惰弱を承知の上で、君が僅かな時間、猶予を作ったことを。
君も、僕も分かっていた。そのくらいは、僕らは互いを理解していたんだ。
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