皆川有輝の場合γ




「はい腕出して」
「あ、ほい」
「落としたら怒るよ」

何のこっちゃ、と思った瞬間、どん、と両腕に重量が掛かる。

「―――――!」

先ほどまで大江が抱え込んでいた友人の体が、今は俺の腕に乗っかっている。ええと、重い。ナチュラルに重い!
大家の孫は金茶の髪を揺らしながら、さっさか歩いて玄関の方へ消えていった。直にもそもそと話し声が聞こえたが、俺にとってはどうでもいいことだ。

良い機会だから言わせて貰うぞ、男だったら誰でも彼でもこの手の行動が取れると思うなよ!結婚式の新郎だって大多数がぷるぷるしながら花嫁を抱えてんだ。セカンド共同作業があれだなんて、重量によっちゃあ結婚が人生の墓場だと思う奴が居てもおかしくねえだろうよ。
幾ら斗与がちっちゃくて軽いからって、頭脳労働者の俺には負担が過ぎる!そうこうしている内に時間が過ぎた!起こすぞ、俺は斗与を起こす!!起きて頂きますお嬢様!!!

「と、…とよ…起きろ…」

悲鳴を上げる筋肉に負けて、腕が段々と落下していく。腰も併せて落としたいのだが、人の体重を支えながら同時に姿勢を変える、という技は些か負担だったらしい。力の抜き方がまずかった、がくん、と俺ごと斗与の体躯が沈む。

「……く、ぁあ」

まずい、頭だけは守らないと、それにしてもこの男は全く起きやしねえ、壊れたビスクドールみたいだ、テスト前なのに俺の黄金の腕が、―――などと散発的な思考が浮いては消えた。
楔のように紺色の影が視界へと刺さる。コットンの、縫製のきれいなシャツだ。生物の教科書を捲る手を包んでいた。

―――助かった。

「……た、助かりました、備様っ」
「非力だ、…皆川。食べたものの分は働け」

斗与の背中と膝裏を、現れた備は俺の腕ごと向かい合わせで抱えた。
だからお前らの馬力がおかしいのであって、俺は典型的なインドア高校生の基本能力は問題なく有しておりますとも。そんなこと言うとな、予告なしにこの腕放すからな。
…やったところで大した効果は無さそうですけどねえ。






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