大江由旗の場合β



彼は猫型ロボットフロム未来の某主人公のように、いちにいさん、で睡眠に付くことが出来る。斗与曰く、唯一の自分の特技、だとか。
一度寝てしまうと、目覚ましや誰かの呼び声がないとそうは起きない。その代わり寝覚めはさっぱりとしているのだけれど。
眠りにある斗与は何をされても起きない、そして彼は「好きにしてていい」と言った。この意味は、僕にとっては何よりも簡単な公式だ。

文字通り、彼が目を瞑っている間、僕は彼を好きにしていい、ってこと。

その時間は、編集された映画のようにぶつ切りで消去されるからだ。僕が思うさま何をしても、無かったことにされるやさしい悪夢の時間。僕と、彼との妥協と依存の時間。

「…………」

人形のように力を失った彼、の頸もとへと手を遣った。
温かい。素肌の肌触りは滑らかで、自分の手のごわつきが心配になるくらい。息を大きく吐いて、呼吸を整える。彼の体温が伝染ったように、僕の体もどんどんと熱くなっている気がした。
フリースのジッパーを引き下ろすと、薄手のシャツにくるまれた胸があらわれた。浮き出た鎖骨に指を沿わせ、撫でる。掌を広げる。心臓のとく、とく、という規則的な振動が伝わってくる。
どうしよ。「どこに」「すれば」いいだろう。夏と違って、今は学ランやシャツで色々隠せるから、頸や腕でも怒られないかも。僕としては指も結構、好きだ。思わずやり過ぎてしまいそうになるから、なるべく避けている場所でもある。

座椅子ごと後ろに下がって、斗与の膝裏へ腕を突っ込んだ。抱えて体を横へ据え、腕で彼の上半身を支える。脱力した斗与はくにゃり、とこちらの力に従って姿勢を変えた。
少し揺らせば、僕の胸の正面にあった顔はずり落ちて、やわらかな栗糸の下、頸動脈が露わになった。
迷わず舐める。舌を伸ばして、脈の流れや筋のすじを探るように丁寧に。

「…ぅ、」

頬に掛かる僕の髪か、それとも行為自体がくすぐったいのか、斗与が小さく声を漏らした。


それにすら僕の熱情は煽られる。


さらに体を倒して――まるで獣が餌を抱え込むように――細い頸根へと顔を寄せた。舌先の動きは圧迫に変じている。押すと当たり前で返ってくる肉の弾力、その下のあたたかな血潮。生きている。そう、漠然と思う。半分、思考が蕩けているな、とも思う。僕の頭がおかしいことなんて、今更だ。

耳朶にも舌を這わせる。窪みのところへ下唇を宛て、ゆっくりと、慎重に歯を下ろしていく。こりこりとした感触に当たる。力を入れれば食い千切れそうだ、でも、出来ない。指と同じで造りがもろいから。

完全に開いたフリースの下、シャツの内側、彼の腹を直接撫で上げる。薄くて、胸がはじまるところからは肉が段々と盛り上がっている。水泳をしているから、肉の付き方は無駄なくきれいだ。
本当は上衣をすべて払ってしまって、何処に触れば少しでも反応が得られるのか探ってみたい。胸、とか、脇とか臍とか肋骨のあたりもきっと楽しいと思う。
でも、時間はあまりに少なく、此処で張り切ってしまったら、勉強どころか睡眠すら怪しくなるかも。
既にあらぬところは熱を持っていて、僕の呼吸は情けなくも荒い。自分の顔とか、今、絶対に見たくない。



- 4 -


[*前] | [次#]

短編一覧



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -