林周の場合β




『ヴェルサイユ宮殿を建てたのは誰だ。……大工、って言ったらマジぶっ飛ばす』
『く、トーメイさん卑怯なり!先に答えを言うなんてひっどーい』
『答えじゃねえ!それ真剣にテストで書いたらペケだからなペケ!』

「……あ」

丁度、東明が問題にしてくれたところではなかろうか。数日前に頭の中を巻き戻した結果、やはりそうだと確信した。

(「…だから答えは大工じゃない」)

で、回答は何ぞや。

――――確か東明が覚えやすいようにあれこれ考えてくれた筈だ。

物分かりの悪い生徒に心底困り果た風で、ぐしゃぐしゃと自らの鳥の巣頭を掻き回していた先輩の姿を思い返す。
せめて教えて貰ったところくらいは何とかしたい。そのくらいの良心は周にもあった。…そもそもは自らの赤点回避の為でもあるが。

『お前はてこでも覚えてねえ、つうか、意地でも覚えねえって感じだなあオイ。俺に喧嘩売ってんのか?こんな窮地に至っても喧嘩を売る余裕があんのかコラ』
『ケンカ売ってるわけじゃなくて、真剣にトーメイさんの日本語がわかんないだけっつうか』
『ほうほう、悪いのは俺か。俺だってのか』
『ソーリーソーリ−、アッフェディン』
『あっふぇ…?あんだと?』
『ガガウズ語でごめんなさーい』
『おッ前は、そこに使う脳味噌を世界史に使えって言ってんだろこのトンマ!』

(「違―う、早送り、ドン」)

胃の腑をはき出せそうな重量級の溜息を吐いて、東明は周のノートの端に数字を書き込んだ。あの数字。あれが答えだった。

『お前が覚えやすそうな方法は残念ながら思いつきそうもない。何故なら俺とお前は思考回路があらゆる意味で違うからだ。分かるか?』
『うん、トーメイさんが可哀想なことだけは分かる』
『何故俺を哀れむ方向に行くのか5文字以内で俺が答えてやろう。答えは「馬鹿だから」だっ』
『トーメイさんもマジ大変だよなあ。お疲れサマー』
『おい、この際だからはっきりしておくが、馬鹿なのはお前であって俺じゃねえ!…って結局この遣り取りで3分は経過してんじゃねえか!馬鹿!』

ああ、もうこれでいいや、と彼は言い、眼鏡の奥から底光りする双眸で周を睨め付けた。

『いいか、この国王の名前は、お前の大好きなエイプリルフールの逆だ。エイプリルフールは分かるよな?貴様らが毎年飽きもせずに阿呆をやらかす忌々しい日だよ!』
『俺、基本的にお祭り関係の日は完全記憶してるもん』
『だからその記憶野も別のとこに使ってくれ…』
『えーじゃあ、名前んとこどうすんの。数字はいいけどさー』
『フランス人っぽいって覚えておけ。カタカナ二文字の覚え方をどうするかなんて、俺には最早どうにもならない世界の話だ。つうかこんなレベルの所で詰まってどうすんだ!糞ったれ!』

―――最近とみに思うのだが、自分や環よりも余程、東明の方が、口が悪いと思う。

(「エイプリルフールのぎゃく」)

1と4とを先に書くと、芋蔓式にするりと名前が出てきた。そうそう、ルイ14世。大工でもマリー・アントワネットでもなくて、ルイ14世だ。

知らず口の端がだらしなく緩んだ。答えられないと思っていた問題が解けると、酷く得をしたような気分になる。

(「えーと、次はぁ」)

先ほど凍り付いた八択へ視線を落とす。大元の問題が解けたのだから、こちらもきっといける筈。エイプリルフールの王様なのだから、

(「答えは――――」)




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