斎藤斗与の場合δ



眼鏡を掛けたままで爆睡するという、ノー眼鏡な俺にとっては至極器用に見える寝相で転がっていた皆川氏、ようやくお目覚めである。腰に巻き付いたままのユキはぼけた声で「おはよう」なぞとほざいている。

「っかー、寝たー…」
「あ、起きた」
「はーいおはようさーん…。あー?なんだ、でかいの1人減ったな」
「黒澤なら部屋に戻ったよ」
「あんだよ寝るなら言えってんだよ…体痛てぇ…」

幾らカーペット+炬燵の敷き布団があるからと言え、床に直で寝ていたから凝り固まってしまったらしい。肩を回しながら、みなは涙が出るほどの大欠伸をしている。

「みな、寝汚いから放っておくって言ってた。黒澤1回は起こしてたよ」
「……マジか…。明日なんか言われそうだな…」とみな。「…俺、何か言ってた?」
「…『俺は起きている!』って寝ながら叫んだ」

有り体に言うとそんな感じ。友人はうわーと叫びながらぼさぼさになった頭を抱えている。

「そなえ…何て言ってた…?」
「『そうかわかった』って一言だけ。それで部屋帰った」

黒澤は俺の脱力ぶりが余程に哀れだったのか、「明日図書館に勉強しに行かないか」と誘いまでしてくれた。本当にいい奴である。
今夜の結果を鑑みるに、部屋を変えたぐらいじゃ集中出来なさそうだから、明日は黒澤にお供しようと思う。俺の内心を量ったようなタイミングでユキの腕が締まった。うーん、読心術でも体得したのだろうか。そろそろ切り上げて、俺も寝るかなあ。

白熱している上級生に聞こえないようにその旨をそっとみなに言うと、彼も眠たげな眼のまま頷いた。腰に頭をくっつけて転がっている阿呆も呼び、教科書を片付けさせて撤収準備。
俺とユキとが持ち込みすぎたノートやら何やら(初めは勢い込んで色々持ち込んでしまうのだ)を積み重ねていると、目をしばたかせながら、みなが言った。

「…あの見目先輩と林先輩のどっちかだけどさ…」
「え、うん。何か化学やってるみたい。難しそうだね」とユキ。習わぬ不得意科目の心配、とからかってやりたいところだが、正直俺も恐ろしくなってきた。
「あー…あれ…」

彼の目線の先には正座の所為で炬燵の効果を半分くらい無視した、見目&林環の2人がFAQを繰り返している。

「…今、見目先輩がやってるらへんって、多分試験でねえと思う…」
「は?」
「まだ2年だろ…。受験の選択化学じゃなくて…ってかそもそも理系じゃないとあそこまで突っ込んだことしねえし…ランタノイド、とかアクチノイドとか…ぁふあぁあ、っあーどこでもドア欲しいー一瞬でベッドに行きてえーたすけてジャック・バウワー」
「………」
「斗与、上まで抱えていこうか?」
「その願望を口にしたのは俺じゃなくてみなだ」

ユキを制止しつつ、鼻をすすり上げながら元素周期表を凝視しているリンカン先輩を見遣った。食べたら覚えっかなあ、と呟いたのを拾い上げた見目先輩が、教科書が無くなってもいいならお前の好きにすればいい、と即答していた。……SかMかと聞かれたら、あれは間違いない、ドSだと思う。リンカン先輩、骨を拾えない後輩をどうか赦してください。

明日こそ、ああ、明日こそは、俺は試験勉強をするんだ…。


>>>END,and go to…


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