東明工太郎の場合




「………」
「………」
「……環」
「……おう、周…」
「もうこれは真打ちに挽回してもらうしかないよな」
「それしかない。やるならいましかねえ、と長渕剛も言ってるぜ」
「長渕が言うならやるしかねえな、――――トーメイさああああん!」
「トリックオアトリートぉおおおおおお!」

最早ノックもしない。把手をがし、と掴むと右へ勢いよくスライドさせた。
体を押し込むように侵入させた二人の顔へ、クリーム質の物体が貼り付く。続いて高らかに勝ち誇る東明の声。

「来るのが遅かったな、林のばかども!」
「う…ぷ、トーメイさん、これなに」

ずるり、と滑り落ちる紙皿をすんでのことで支える。テレビで見たことがある、古式ゆかしいクリームパイだ。
白い生クリームでぼやけた視界ににやにやと笑う東明が立っている。初めからスイッチが入っているのか、垂れ目は据わっていた。心なしか、隈も浮かんでいるように見える。

「取りあえずそれは俺からの餞別だ。勿体ないから食え。食い物は粗末にするな」
「りょ、リョーカイ…」

言われるままに顔についたクリームを取っては舐める環。頷く東明は満足そうだ。

「お前らのことだ、菓子を用意しておこうがしておかなかろうが、悪戯してくるに決まってる。ならば俺だってやり返さなきゃ気が済まん。先手必勝だ、参ったかふははは」
「参りました…、なんて」
「言う訳ねえし!食らえ、ハバネロクラッシュ!」

斎藤から貰った激辛飴のパッケージを素早く剥き、見た目も赤く毒々しいそれを二つ纏めて先輩の口へ突っ込む。思い切り舌で味わってしまったらしい東明はもんどり打って壁を叩いた。

「う…っく、ゲホ、ッゲホ…」
「見たか!とよとよと俺らの愛の結晶!」

白塗りの吸血鬼の言葉に東明は呆然とし、次に顔を真っ赤にして怒り始めた。赤面の理由は別にあったのかもしれないが。

「ぐ、げは…、と、とよとよ、って斎藤か…お前ら、斎藤に何をしたあ!」
「首舐めました−」
「足撫でました−」
「あんだと!赦せねえ!歯食いしばってそこに直れええ!」

激昂する東明から距離を取って、環は片割れに声を掛けた。ビデオがうまく撮れているかどうかは、半ばどうでもよくなっている。

「お断り!周、次なる武器はなんぞや!」
「えー、ミメの葬式アタックしかないんだけど…」
「もういいや、それでいこ。そこはかとなく不吉な感じがしてイイ感じ。ついでだからこの生クリームもプラスしてマルキンスペシャルを再現しよーぜ」
「さんせーい、おーし、食らえトーメイさん!」
「は、パイが2個しかないと思うなよ!貴重な受験勉強の時間を削って徹夜で作ったんだ、全部味わえサラウンド馬鹿!」

やっぱトーメイさんはこうでなくちゃ、最後にとっておいて正解だった、と目で語り合った双子は両手にパイ皿を抱えた東明と対峙した。薄いグレーのトレパン上下でウェイター持ちで皿を掲げる先輩は、ちょっとどころではなく愉快な眺めだった。

「徹夜までして待ってくれるなんて、トーメイさん実は健気キャラ?」
「その腐った脳味噌かっぽじって数Uの教科書でも詰め込んでおけ!」


>>>Trick or Treat?



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