見目惺の場合




□見目惺の場合□

やいのやいの騒いでいる1年生を置き去りに、林双子は一番奥の部屋までやって来ていた。黒澤で溜まったフラストレーションは大分、軽くなっている。

「しかし今ひとつハロウィンっぽい感じがしねえよなあ」
「盛り上がってんのが俺たちだけ、ってところに問題があるんじゃねえの」
「前日から仕込んでおけばよかったよなー。廊下に電飾吊すとか、万国旗下げるとか」
「来年そうすっか。…おーい、ミメー。いるか−」
「ミメやーい」
「…どうした、二人とも」

ジーンズ、Yシャツ、カーディガンと、ラフな格好の見目は、勉強でもしていたのか呼び声に応じてさっさと現れた。双子の扮装に動じた様子はない。敢えて黙殺している風もある。

「トリックオアトリート!」
「お菓子出さないと悪戯すんぞ」
「そうか、今日はハロウィンだったな。お前たちも毎年良くやるなあ」

戸を開け放つと、見目は体を後ろにずらした。首を傾げる二人。

「どうした。入らないのか」
「え、…あ、うん、じゃあ」
「おじゃましまーす」

吸血鬼とミイラ男を部屋に案内し、丁寧に座布団まで出すと見目は机上の参考書を閉じた。カーディガンを椅子に引っかけると、窓枠にぶら下がるハンガーからジャケットを外して着込む。

「あれ、ミメどっか出かけんの」
「当たり前だろう、全くこういうことをするなら先に言っておいてくれ。俺にも準備があるからな」
「ごめんごめん…って」
「周、めくるめく厭な予感が…、ってミメいねえし!」
「何この放置プレイ!」

気がつけば見目の姿は既に無く、扉は開いたまま、二人は置いてきぼりを食らっていた。
思わず座布団に正座をしていた双子はあわあわと立ち上がる。

「どうする、次いく?」
「え、でもミメ戻ってくるような感じじゃなかった?ドア開いてるし」
「言われてみれば」
「もうちょっと待ってみる?……って、ミメ!」
「何分、…かかった?」と見目。少し呼吸が荒い。
「測ってねえし!ってか何ぜーぜー言ってんの」
「橋の先のコンビニまで行ってきたんだ。…なんだ、人に頼んでおいて」
「え…?」

呆気に取られた環の手に、白いものがぽん、と放られる。続いて周にも。

「迷ったんだが、葬式饅頭が目についたからそれにした。ハロウィンとは些か趣が違うが、腹には溜まるだろう。スナック菓子は体に悪いし」

滔々と言う見目の顔と、手元の饅頭を見比べる双子。薄く滲む汗を手の甲で拭いながら「喉が渇いた」と見目は呟いていた。相変わらず固まったままの二人を見遣って、呆れたように言った。

「知らんのか、葬式饅頭。ああ、俺の地元では葬式饅頭、って言うんだ。世の中的には普通の饅頭だし、特に不吉なものでもないから大人しく貰っておけ」
「いや…知ってるけど…」
「ありがとお…」
「どういたしまして。…さ、ほら。次行かなくていいのか?飯の時間になっておばさんに見つかったら、お前たちまた叱られるぞ」
「お気遣い無く…」
「失礼します…」
「ああ、おつかれさん」

後ろ手に扉を閉めた後、周は向かいの空室の扉へぺたりと額を付けた。環はビデオを回していることも忘れているのか、機械を持ったまま腕をだらりと垂らしている(この間、当然のことながら廊下の木目しか録画しておらず、後々母が憤慨していた)。

「なんか、遠回しに『おとといきやがれ』って言われてない、俺ら」
「まさかミメも俺たちのこと嫌いなのかな…」
「どうなのかな…でも案外全部本気発言かもしんないぜ…」
「それはそれで怖ええよな…」




- 4 -


[*前] | [次#]

短編一覧


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -