(5)



2人に置き去りにされた俺たちのその後は、悲惨なものだった。


林双子と新蒔に寄ってたかってライフを削られた俺はふらふらしながらベンチに掛けた。何もしてないのにこれだけ疲れるって一体全体どういうことだ。
やはり、かつての予想は正しかった、3人をかち合わせると碌な事にならない。ああ、ユキに報告したい、でも出来ない。だって新蒔と2人でマルキンに行った、とばれてしまう。
一方の新蒔は鼻息荒く店に戻ろうとして、店のご主人に「早く食わないと溶けるぞ、大輔」と声を掛けられていた。

「え、何がスか」

おじさんは呆れたような声が聞こえてくる。

「焼きそばとソフトクリームのコーンなしと、たこ焼きとアメリカンドッグと大判焼きのあんこ生クリーム、フランクフルトとお好みそばが出来てるぞ。…1時間の払いはこれで充分だろう、店ん中用意してあっから早う食え」
「………」

それから俺と新蒔はもの凄い馬力を出して粉物の山を平らげた。食べ物は無駄にしちゃあならん、例え相手があんこと生クリームを皮からはみ出させた凶悪な物体だったとしても、人には挑まなければならない時がある。

「サイトー、ちょっと持ち帰れよ」
「ユキにばれたらどうすんだ、うるさいぞきっと。…お前こそ持って帰れ」
「うちの女どもは目下ダイエット中につき、マルキン製品は出禁なの!姉貴のプロレス技食らってみろ、じいちゃんが花畑の向こうで手を振ってる景色が見れるぜ」

俺の場合はお袋が煙草銜えながら、しっしと手を払ってるビジョンだろうか。どちらにしてもあまり景気のいい眺めではない。
食い初めとしては最悪だけれど、溶けてしまうので致し方なくソフトに噛みついていたところ、たこ焼きを咀嚼しながら新蒔は言った。

「マルキンの戦いは辛くも勝ちを収めた。だが……敵は多く、未来のことは誰も、何もわからない」
「…は?」

どこの何を朗読しているんだ、と彼の視線をなぞったけれど、そこにあるのはビール片手に微笑む美女のポスターだ。文字は「DRY」としか書いていない。二回くらい確認したけれど、同じだ。
たこ焼きの串をへし折りながら、金髪のちょんまげはやおら立ち上がった。床に倒れた椅子が結構いい音を立てる。勿論、近い席の連中は何事かとこちらを見た。

「正義の為に戦えオレ!走れオレ!悪の双子を倒すまで!首を洗って待ってろ緑陽館!」
「ちょ…っと、阿呆、黙れ!」
「次回、『嵐を呼ぶ必殺技、決めろゴールデンアタック』!!」

刺さる視線のうち、緑のブレザーを着込んだ生徒のそれが鋭く尖る。ああ、居たたまれない。リアル針の筵だ。慌てて座らせたが、新蒔の恥ずかしい一大叙事詩はしばらく続いた。脳味噌の皺は別のところに使ってくれ。勉強とか常識とか常識とか!



新蒔と林双子の初めての邂逅は以上の通りだ。新蒔のアビリティ「わすれる」は発動しなかったらしく、その後も緑陽館を仮想敵に据えた日夏学園一の阿呆と、変態のライバルを手に入れた林先輩たちとの戦いは恒常的に続いた。
下宿で、マルキンで、どうやら新蒔の馬鹿はバイト帰りに緑陽館まで押しかけたらしい。あいつ、実は暇だろ。

とにかく何でもいい、好きにしろ。
但しお願いだからこれ以上俺を巻き込むのは堪忍していただきたい!





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