(4)




時代劇の悪者みたく、妙な見得を切った姿勢で双子がショックを受けているので、これ幸いと身じろいでみた。ううん、外れない。背後霊のように取り憑かれている。
リンシュー先輩が腕を絡めながら哀しげに言う。対ユキでもそうなのだけれど、この手の顔とか仕草に絆されやすいから、いつも痛い目に合うのだ、俺は。

「とよとよー、俺らよりあんなのが良いわけー?」
「馬鹿っぽそうだし、顔もヘンだし、割烹着みたいの着てるしさあ。何より、頭プリンでちょんまげだよ?俺らの方が絶対お買い得だよー、今ならセットでついてくるし」

遂に自分でも言い始めちゃったよこのひとは。
自虐的発言に走り始めた林の片割れを見るに堪えず、俺が慰めと解放のお願いを口にしようとしたときだ。

「黙れタマキン!四の五のやかましいわ!!」
「!!!」

……なんだって?

「男なら大人しく負けを認めて諦めろ!サイトーはな、俺のフェロモンにメロメロで、てめえらなんて目じゃねえんだよ」
「ええと、新蒔君」

俺は自由な手で級友を招きつつ訊いた。彼はちょっとあらゆる意味で聞き捨てならないことを言ったのだ。全文添削したいけれど、とりあえずは最初の一言のほう。

「あんだよ、いいとこなんだよ止めるんじゃねえよ」
「ちっともいいとこじゃねえ、阿呆。ってか、今、お前先輩たちのこと、見分けたのか?」

質問の意味がよく分からなかったのか、新蒔は僅かな間、静止した。それから、こくり、とブリキ人形のように首肯する。余程心外な質問だったらしい。

「えーっと、そっちのそれはタマキンだ。ククク…なかなか残念な名前だよな、呪うなら自分の親を呪えよ?それから、てめえはアマネだよな、アマネ…アマネ…、ぐああ、いいの思いつかねえ。次回まで保留だ、それまでてめえはタマキンツーだ!」
「!!!!!!」
「お前、俺らのこと区別つくの」
「俺らのこと、わかんの」
「分かるに決まってんじゃねえか。てめえがタマキンで、そっちがタマキンツーだって言ってんだよ」

…あってる。

「と、とよとよ、目隠し!」
「あ、は、はい」

成り行きで解放されてしまった俺は諾々と新蒔の後ろに回った。幼馴染みののっぽはともかく、新蒔くらいなら手が届く。えい、と背後から作務衣姿に抱きつき視界を遮った。

「ナニこのギャルゲー展開?!ッアアアアア!これでサイトーがおなごであれば!」
「ハア?」

と愚にも付かない遣り取りをしている俺たちを置いて、林先輩2人はくるくると狭い範囲をうろつき、お互いの服装を確かめ合い、全く同じ程度に崩し(あるいは直し)た後でこちらを振り向いた。

「オッケー」
「お願いしまーす」

言われた通りに目隠しを外す。「あんだよー」と言いながら、新蒔は首をこきこきと鳴らした。そしてぼんやり、かつだるそうに前方を見遣る。俺も妙にどきどきしながら、彼に声を掛ける。

「…あ、らまき、さあ。お前から見て右、右に立ってる方さ、どっちかわかる?」
「ああん?……あー、タマキンツー」
「………」
「………」
「…正解…」
「はあ?だって見りゃわかっしょ」

いつかの俺が下宿生に言ったと同じ台詞を、新蒔はなぞるようにして言った。どうでも良さそうに耳の付け根を掻きながら首を傾いでいる。
呼び名はともかく、新蒔が示した方はリンシュー先輩で、間違いない。

「うっ……」

唐突に、片方がその場に頽れる。顔を両手で覆い、絶望のポーズだ。

「いや、落ち着け環!…まぐれかも、まぐれかもしんないし!」
「お、俺やだ!あんなヤツと結婚すんならミメと付き合った方がマシ!」
「俺はそっちも絶対やだ!お断りします!だから偶然だって、たまたまだっつの!」
「あいつら、何揉めてんの?」と新蒔。あー、説明するのは非常に気が進まない。
「でも親父にバレたら『2人も見つかって丁度いいじゃないか!』って絶対言う、あいつ絶対言う!」
「お袋は『運命の相手を巡る2人の愛の攻防戦ってのも勿体なかったわよね〜』って言うよな、韓ドラの見過ぎだって!」
「駄目だ、へこんでるときに何考えてもいい案浮かばない!て、撤退!」
「おうよ、ここは取りあえず名誉ある撤退!目的地、大江家−!」

ご両人はそれぞれ放り出していた荷物を掴み、ばっとこっちを見た。若干、涙目。泣くほど厭か。――――そうですよね、厭ですよね。

「お前のウェディングドレス姿なんぞ見たかないやい!」
「文金高島田もごめんだ、ばかー!」
「これで勝ったと思うなよ!」
「覚えてろ!」
「次は絶対にぎゃふんと言わせてやる!」
「首を洗って待っていやがれ!」
「……っ、とよとよ、下宿でね!」
「帰ったら背中流しっこしよーね!」

負け犬の遠吠え、捨て台詞のオンパレード(微妙に承服しかねる内容も含まれていた)を果たすと、文字通り林先輩たちはケツを捲って逃げた。素晴らしい逃げっぷりで、あっという間に濃緑色のブレザー姿はアーケード口へと消えていく。

「おとといきやがれ、タマキンコンビー!!」

模範的な応答の仕方をありがとう、新蒔君。でもその呼び方はいい加減やめてくれ。





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