(3)



「あ、新蒔、助けろ!」
「なに、遊んでんじゃねえの?」
「断じて違う!」と唾を飛ばす勢いで叫ぶ俺。
「じゃー、今度オレが大江に絡まれたら助けてくれる?」
「……それなんかちがくないか」

お前がユキに絡んで揉めるんだろうが。しかし目下の俺に指摘している余裕はない。力いっぱい頷くと、さも大儀だと言うように新蒔が近付いてきた。

「おい、そこのそっくりさん大賞よ、そそ、あんたらのことだよ。―――サイトーのこと離しな」

ついでとばかりに握り拳を作った新蒔は、親指だけを立ててそれを下へと突き下ろした。えーとなんでしたっけ、それ。ゴートゥーヘル?ふぁっくゆー?

「あ、あ、あほー!」と俺は絶叫。
「あん?なにか問題あんの?」
「助けろと言ったが喧嘩を売れとは言ってない!」
「え、助けつつ喧嘩を売ればイイわけ?…オレいっぺんにふたつのことできねえんだよなあ」
「ひとつだけ!ひとつだけすればいいから!……って、うひゃあ!」

リンカン先輩の拘束する力がぎゅうう、と強くなった。唐突に重みが肩へと乗る。振り返ろうとして、人の頬へ顎をぶつけそうになった。のし掛かってきたのはリンカン先輩の顔。俺の肩へと頭を乗せている。

「やあだね。離さない」
「なんでそんなことお前に言われなきゃいけないんだっつうの。お前はなに」
「とよとよの何なわけ」
「ただの同級生は黙ってな、このちょんまげプリン」
「あ、まねせんぱい……、たまきせんぱい…?」

反対側に並び立ったリンシュー先輩は、俺を見てちょっと笑った。口の端がぴくぴく震えてる、

――――――怒ってる。

は、はじめてみた!林先輩って怒るんだ!…って、そりゃ怒るよな。当たり前だ。にんげんだもの。滅多にない展開にちょっと興奮してしまった。
気が昂ぶっていたのはどうやら、俺だけでは無かったらしい。止め損なっていたら、話はとんでもない方向に転がり始めてしまった。双子は言わんでもいいことまで触れ始めたのだ。

「とよとよは俺らのなの」
「俺らのおよめさんになるこなんだよ」
「とよとよ、こいつ、何?いじめっこ?」
「いじめっこなら俺らがぼこっちゃるから、正直に言いな」
「え、ヨメ?誰が?サイトーが?」

流石に新蒔も突っ込む。そうですよね、そこ突っ込みますよね!

「いーやいやいやいやいや、それは違います、違いますよ新蒔君!」

必死こいて体を捻って、すぐ脇にあったリンカン先輩の口を塞いだ。動悸息切れ、冷や汗が止まらない!

「新蒔はいじめっ子じゃないです、クラスメイトです!それから二人とも、変なこと言わない!」
「えー、何でさ。だってもう確定事項じゃん」
「ひょよひょよふぁおひぇひゃほほお、ひゃんほみひゃへはんははあ」
「たまきのゆう通りだよー」
「なんて言ってんのかわかりません!ひゃ、リンカン先輩、手ぇ、舐めないで!」
「さんぴー?」
「……はい?」
「サイトー、さんぴーか?さんぴーがしたいのか?」

……絶句。

難しい顔して黙り込んでいたと思ったら、顎に手を添えた姿勢の新蒔は、とんでもないことを、言い出した。「それでも地球は回っている」と言ったガリレオおじさんのように、とっても思索的なお顔だ。

「そうだよなあ、同じ顔なら合意で致せるよなあ。3Pは男のロマンだもんなあ。例え女が1人もいなくても3Pは3Pだもんなあ」

全て理解した、と言わんばかりの仕草で頷く新蒔。違う違うそうじゃない!大間違いだ、と言うか、往来でそのような阿呆な発言を繰り返すな!通り過ぎる子連れの女性が「ままーさんぴーってなにー?」「しっ、まーちゃん、みちゃだめよ!」と古式ゆかしく仰っているじゃないか!

「ちーがーうー!」
「そっかあ、そういう手もあるのかあ」

え。

「えー、たまきー、話違うじゃーん。まずはとよとよにオッケー貰ってから考えようって言ってたじゃん」
「でもさあ、それが一番平和的解決な感じしねえ?」
「ちっとも平和じゃない!重婚は法律で禁止されています!というか、それ以前の問題だ!!」
「怒らない怒らない!」
「怒った顔も可愛いけど!」
「あーらーまーきー!!何とかしないと有ること無いこと、ユキに言うぞ!」

我ながら情けなさ万点の脅迫は、しかし、新蒔には効いたらしい。「3Pもどっちが先かで揉めるんだよな」と全く役に立たない忠告をしていた新蒔も、びくり、と体を震わせた。遅い!

「…ま、まあ、サイトーを手籠めにすんなら、まずオレの許可を取ってからにして貰おうか」
「なんで」
「どうして」
「オレとサイトーはすっぱを見せ合った仲だからだ!!」

アホンダラ!あれは水泳の授業で着替えが一緒だった不可抗力だろうが!

「ガーン…!」
「お、落ち着けあまね!…ええと、お、俺らだってとよとよと一緒に風呂入ったことあるもん!」
「あれはあんたらが勝手に入ってきたんでしょうが!しかも俺まだ服脱いで無かったし!」
「とよとよ、どっちの味方なの!」
「どっちでもな……、いや、今はどっちかと言えば新蒔…?」

不本意ながら。

「ええと、うんと、あ、俺らはとよとよと毎日同じ釜の飯食ってまーす」
「ひとつ屋根の下で寝てまーす」
「オレは毎日同じ教室で授業受けて昼飯も一緒に食って、体育の授業で着替えも柔軟も、フォークダンスだって踊ったことあるもんねえ」
「ぐあ!」
「ず…ずりい…」
「………」

忌まわしい過去を開陳するのは止めて戴きたい。背が低いからって女役に回されたのは末代とは行かずとも次代くらいまでは恥だ。
つうか、何か改めて指摘されると俺と新蒔(とユキ)はマジでつるんでることが多いんだな…。いいのかな。青春の費やし方、間違ってないか?




- 4 -


[*前] | [次#]

短編一覧


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -