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帰省中の東明 工太郎の部屋の壁に、林兄弟が大穴を開けたのはつい、先週のことだ。穴は東明の部屋だけではなく、周、環の部屋をも貫通し、人が潜って通れるほどのサイズがぽっかりと開けられていた。隠蔽工作(としてはあまりにお粗末ではあったが)に貼られたグラビアのポスターに加え、家具やらさらなるポスターやらで、大家の目を当座は誤魔化した。
合宿から帰ってきた双子に事情聴取と説教、東明曰くの制裁を加えるべく全員が集合したのが、この日曜日だった。


「それで?部屋の壁に穴を空けたのは、喋ったり行き来をするのに楽だからってことでいいのか?」

この手の役回りが自分に来ることは宿命なのか、消去法なのか、はたまた貧乏籤なのか。一体全体どれなんだろうなあ、と見目は柄にもなく内心でぼやいた。表面上はいつも通りの平静沈着した顔だ。

「そー」
「いま、ノコで形を整えてちっさいドアを作ってるとこ。完成したらミメにも見せっよ」
「そうかそうか。ドアは結構だがな、おばさんにばれたら、お前ら大目玉だぞ」
「ばれなきゃ平気だもーん。な、環」
「なー、周ー」
「……普通にばれるだろ」と突っ込んだのは斎藤。

「見つかったらやっぱ追い出されたりすんの?」

食べ終わった皿を重ねながら皆川は問うた。既に落ち着きを取り戻した大江は斎藤の隣に腰掛け、湯飲みを手で囲っていた。若干年寄り臭い。

「うーん、正直そこまではしないと思うけど。でもばあちゃんに叱り飛ばされて、親に連絡されて、説教フルコースにはなるんじゃないかな」
「そんなん当たり前だ!生温いわ!」
「…東明先輩もまとめて怒られそうですけどね」
「う…」

大家の老女にはどうも林双子と東明とがセットになって見えているらしい。林の悪戯に東明が怒り狂っていると、大抵三人まとめて叱られてしまうのだ。御陰で品行方正を志しているにもかかわらず、東明に対する大家の好感度はそこまで高くない。

「今は隠しおおせても退去の時には絶対ばれるわけだし、取りあえず修理するのが一番無難だと思います」
「斗与、まともだなー。俺もそれに一票」
「同じく」と黒澤。
「僕もそう思います。と言うか、そうしてください。直すものは直して貰わないと」
「…1年の意見はまとまったみたいだな。さて、最大の被害者たる東明さん、どうですか」
「まずは一発ずつ殴らせろ。それから文句も気が済むまで言いたい。修理はてめえらだけでやれ、以上」
「うわー、トーメイさん怖いっ」
「トーメイさんマジギレー」
「当たり前だろスカタン!お前らの頭の中はプリンか!」
「プリンじゃないよ、ちゃんと入ってるよホラ」
「俺もっ。ホラホラ、旋毛の真ん中あたりをルックアット」

ぼこぼこっ、と痛々しい音が響き、周と環は頭を抱えた。震える拳を容赦なく振り下ろした東明は身を戦慄かせている。

「実にいい音だ。空っぽさ加減がよく分かるわ!」
「…ったー」
「酷っでー」
「鉄拳制裁も文句もこれで良いですかね。修理については、ま、手伝うか手伝わないかは頼まれた奴判断でいいと思うな」

さっさと終わりにしたい雰囲気が見え見え、かつそれを隠す素振りもない見目に、東明はぎゃっと歯を剥く。

「まだ言い足りん!」
「じゃああとは三人水入らずでやってください。俺、午後から練習入ってるんですよ」
「そうする!」

先輩は非常にやる気であったので、見目は謹んでその意思を尊重することにした。役目は果たした、とばかりにゆるやかに腰を上げて立ち上がる。

「林、ちゃんと反省しろよ。他の連中もほどほどにな。一日潰れるぞ」
「おい見目、なんだその言い種」
「東明さんも。若いうちからそんなに怒ってると高血圧になりますよ。じゃ、また」

ひらひらと手を振る双子。うるさい人間には一人でも減って貰うに限る。
東明と遊んでいるのはまだしも、見目相手ではどうにも遊ぶ、という雰囲気にはならないのだ。気が付くと難しい話になっていたり、日夏の剣道部を見学する話になっていたりする。剣道馬鹿にスイッチが入ったミメは超めんどくさいよねーと、互いに視線で会話を交わす。
あの要領の良さは見習うべきだな、との感想を改めて抱いたのは皆川だ。広い背中はさっさと去って行った。




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