(4)




「―――大体は分かりました」

そこまで狭くもないが、男5人が集まって余裕、と言えるほど広くも無い部屋で、めいめい床やら壁やらに、座ったり寄りかかったりをして工太郎の話に耳を傾けた。主に真面目に聞いていたのは大江と斎藤で、見目は穴のサイズを定規で測り、皆川は本棚から勝手に漫画を取って、ぱらぱら捲っている。黒澤はぼんやりしていた。

「非常に残念だけど、林さんたちは合宿で三泊不在にすると聞いています。居ない間は高確率で、ばあちゃんは掃除に入ります」
「え、プライバシーとかないの」と弾かれたように皆川が顔を上げて言う。
「ちゃんと掃除さえしておけば平気だよ」と見目。「散らかしてるとガサ入れあるから」
「ガサ入れ…」
「林さんたちのどっちかが去年、部屋でキノコを育てたのでばあちゃんは過敏になってます」
「でもあれ、何か黴びさせたとかじゃなくて、マジでキノコ育ててたって聞いたけど」

そろそろ収穫だったのにぃ、とがっくり肩を落としていた二人を思い出して工太郎が言えば、大江はすう、と眼を細めた。

「どっちも大して変わりません」
「ま…ま、あ、そうだよな」
「だから、ばあちゃんが二人の部屋に入ったら当たり前にばれます」
「おお」
「僕としては正直、斗与以外はどうでもいいので、」
「…ユキ」

大江の隣にちょこんと座り込んだ斎藤が、普段考えられないような冷たい声で友人の名前を呼んだ。本棚の前で長座する皆川、壁に寄りかかっていた黒澤、脇で定規と戯れている見目が注視すると、大きな身体を心持ち萎めた大江は小さく唸った。

「…ですけど、取りあえずはまずいので、何とかしましょう」
「幸い人手もあるしな」と見目。「斎藤、手伝ってくれるか?」

愕然と目を見開いた大江を置いて、斎藤はこっくりと頷いた。工太郎には彼が天使に見えた。TPOが赦せば細い身体に抱きつきたいくらい。

「勿論」
「ということは、黒澤も手伝うし、皆川もやるよな」

畳みかける口調で見目が言えば、黒澤は小さく頷いたように見えた。皆川は漫画で無理無理顔を仰いでいる。少ししてから肩が落ちた。

「…因みに駄目って言ったらどうなるんすか」
「あ、考えてなかったな。どうしようか」
「いえ…、いいです…やります…。やらせてください」
「じゃあ、皆着替えてから此処に再集合な。そうだ、誰か、雑誌買ってる?付録にでかいポスターがついてるような奴」
「…ポスターなら」

意外な発言の出所に、見目がおや、という顔をした。黒澤は記憶の裾を掴むようにゆっくり瞬きをする。

「家から貰ったのが」
「使い物にならなくなると思うけれど、いいのか」
「構わない」
「分かった、黒澤はそれ持って来い」
「見目、一体何するよ」
「誤魔化します」と返事をしたのは大江だった。心なしか目が据わったままだ。
「見目先輩の考えていることは、何となく分かりました」
「俺は何すればいい?」と斎藤。
「…見守ってて」
「大江、気持ちは分かるが、高尚過ぎて現実味がないぞそれ。斎藤は雑巾と箒。場所は分かるか。皆川、お前掃除機この前使ってたよな」
「あー、引っ越しの必需品ですから。持ってくりゃいいんですね」
「頼んだ。…東明さん、東明さん?大丈夫ですかー?…仕方ない。大江、少し目を瞑ってて。斎藤、雑巾は俺が持ってくるから、着替えたら…」

見目がかがみ込んで、斎藤に耳打ちをしている。少年は暫く考えてから、しっかりと頷いた。大江はさらに渋い顔。
剣道部の副部長は手慣れた様子で手をぱん、と叩き合わせた。

「はい、それじゃあ解散」



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