(1)



【林と東明と壁】


ある日、帰宅したら部屋に美女が居た。


―――もとい、ある日、学校から帰ってきた下宿先の自分の部屋に、全く見覚えのないグラビアポスター(A2版)が貼ってあった。

「あ…?」

小学校の飼育小屋に掛けてあるような南京錠だが、部屋には鍵が付けられている。学校に行くときはちゃんと掛けていくから、部屋には誰も入れない筈なのに。そもそも今日は実家から直接学校に行ったのだ、日付を跨いで部屋を空ける時は、なおのこと施錠はしっかりやる。

工太郎は呆然と、壁で微笑む美女を眺めた。唇は少し大きめだけれど、肉感的な美人だった。はちきれんばかりの胸を覆う黄緑のビキニや、その谷間にやわらかく掛かる長い髪、みっしりと肉の付いた太股。
幼い頃に流行った、二人組の女芸人(…あれは芸人だったのだろうか)か何かのように、両腕を身体の前へ伸ばして組み、両胸の谷間をさらに深く見せつけている。
計算されたアングルにあっさりと負け、しばし肌色の稜線に見入ってしまった。工太郎は御年17歳。お年頃なのだ。

「…い、いかんいかん!何やってんだ俺は」

トリップすること数分、ようやく正気に返る。
とにかく、このポスターは工太郎が貼ったものではない。この手の代物を堂々と貼る度胸も趣味も持ち合わせがない。
誰が貼ったか知らないが―――いや、少しは予想ができているのだが――、早く剥がして持ち主に返すのがベターだ。そう考えて、荷物を床へ放り出すと、割合と低い位置に貼ってあるポスターの角へ、手を伸ばした。

ぺり。

「……………」

ぺりぺり。

「………、?」

何か今、変なものを見た。

思わず途中まで垂れていたポスターを壁へと貼り戻してしまった。グラビアアイドルの笑顔が正しく引き延ばされ、彼女と工太郎の視線が再び絡み合う。にっこりと唇を吊り上げた表情は、「こんなこと大したことじゃないわよ」と言っているかのようだった。

「一体、何なんだ…」

現に目にしたものが間違いであればと、女の腹のあたりを撫でる。感触は、酷く頼りない。

「…………」
「…あの、何してるんすか」
「!!!!!」



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