(3)



「あーと、もう一度繰り返すぞ−。もう知ってるとは思うが、こっちの、茶髪のひょろっとした困り顔が似鳥な。呼び捨てでも何でも、好きに呼んでやれ」
「似鳥さん、って呼んでもいいですか?」
「…好きにして下さい」と草一。
「はい!」

いい子の返事をする長髪の少年に、雄策は手をのべた。友人が憔悴して見えるのは気のせいでは無いだろう。しかしそれを案じる余裕は、草一からも消失している。革張りのソファに座っているのが精一杯だ。

「で、こっちのロン毛が山ノ井妙見。オレはたえ、って呼んでる」
「あ…じゃあ、僕は名字で…」
「名前で呼んで下さい」

間髪入れずに命じられて、草一は背筋をびくりと揺らした。

「…わかりました…。ええと、みょうけん、くん?」
「はいっ」

満面の笑顔に思わず目を背けてしまう。眩しすぎると言うか、直視に耐えかねると言うか。好きだの、愛しているだの告げられた後では、平然と相対することすら躊躇われた。
自分は軟弱だろうか、と思い、いや普通はこれで良いよな、と自己弁護。
先ほどから思考は無限にループして、横顔しか見せない草一を、妙見がどんな目で見ているかも気が付かないで居る。

「それから、この眼鏡でむっつり黙ってるのが南街真人。たえの傍仕え」
「…初めまして、似鳥先輩」

南街の常識的な挨拶が却って空々しいくらいだった。黒い短髪を切り揃え、こちらも、特進科のブレザーを着込んだ眼鏡の少年が礼儀正しく頭を下げた。妙見ほどの派手さは無いが、背の高い、見栄えのいい少年だった。本でも持たせて窓際に置いておけば絵になりそうだ。

「はい、…初めまして」


気の抜けた礼を返しながらも傍仕え、って何だ?と瞬間疑問が沸いたが、そうかかずらってもいられなかった。出会い頭の告白で頭は飽和状態なのだから仕方がない。誰が、誰を好きだって?

「むしろ愛している、と言い換えても差し支えありません」

すらすらと耳慣れない言葉を吐く少年―――妙見は、蕩けそうな目で此方を見ている。此方を、そう、自分を。草一がぶるりと首を振ると、小さく笑い声を上げた。軽やかで、気持ちの良い笑い方だった。身形や所作が示す通り、おそらく育ちの良い人間なのだろう、と思う。

「驚かせて済みません。でも、小津さんのご友人だと聞いて居ても立ってもいられなくなって」
「…僕は、君と何処かで逢いましたっけ」
「いえ、直接お逢いするのは初めてです。思っていた通りのひとでした。一目見た時から、ずっと僕は貴方を捜していました」

テーブル越しに手を捕らえられ、ぐっと向かい合わせの顔が寄る。隣に腰を下ろした雄策が、おい、と窘めるように声を発した。

「だってもう、我慢の限界で」
「……あの、すみません。…ちょっと…ごめんなさい」

草一だって、我慢の臨界点に達していた。
熱視線に耐えかねてソファから立ち上がり、不思議そうに見上げる妙見から逃げるように台所へ立った。雄策が何事か呼ばわっていたのは聞こえた、礼を失している、と理解もしている。それでも構わず居間を辞した。









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