安息日の終わり(2)



クラスメイトは俺を呼ぶだけ呼んで、さっさと席に戻ったようだった。特進科の生徒だけが1人、苛だたしげにドアに寄りかかっている。
俺と同じくらいの背丈の、ぱっと見、女に間違えそうな容姿をしていた。目はでかいし、睫毛もばさばさだ。睫毛凄げえ!と気が取られるくらいに長い。不本意ながら俺もあれこれと(ちびとかちびとかちびとか)言われるけれど、目の前の彼は別格に思える。
特進科生ってこんなもんなんだろうか。

特進科と俺たち普通科は敷地は一緒でも校舎や制服、教育内容は全然違う。入学者数が減って廃校決定だった公立校を学校法人が買い取って作ったのが普通科。ついでとばかりに自前の私学を隣にくっつけて出来たのが特進科。
日夏学園高等学校と言えば大体は特進のことで、俺たち普通科は若干の揶揄も込めて北高、とか日北、とか呼ばれる。潰れかけた高校が北高って名前だったからだ。
特進は学費も高く、入学層も良家の子弟――下品な言い方をすれば、金持ちが異様に多いとは聞いている。どれも縁遠いお話だ。

例えば、今向かい合って立った特進科と俺は、同じ高校である筈なのに、片や黒のベストにフレンチグレーのスラックス、赤のアスコットタイを締め、一方の此方はBEAMSのポロシャツに黒い学ランのズボンという統一感の無さである。
普通科の制服は旧北高のそれだそうで、買い取るならもうちょっとやる気出せとは思う。究極的にはどうでもいいけど。

「あー、あんた土足じゃん。スリッパくらい借りてきたら」

特進科の校舎は土足でオッケーと聞いたことがある。多分、連絡通路からそのまま来たのだろうが、生憎と普通科は普通なので学内は古式ゆかしく上履きだ。
初対面の他人の行動に口をさしはさむパッションは無いけれど、ユキのばあちゃんはこういうのに凄く煩い。よってその薫陶を受けている俺も、どうでもいいと思いつつもつい言ってしまう。

「…うるさいよ、普通科の分際で」

――――この会話で席に戻りたくなった人。ハイ、俺!
満場一致、全員賛成で可決です。宜しい、右旋回のち反転、帰投を許可する。


「待ちなよ。…君が、斎藤斗与なんでしょ」

外見に違わず、男にしては気持ち高い声音に、どこか嗜虐的な色合いが混じった。

「……不感症の。」


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