安息日の終わり(8)



「なんで斗与のこと知ってたんだろう」

うお、そう来たか。ええと、こういう時はどう切り返せばいいんだ?元カノの友達の弟、が真実だが、彼女と俺の笑えない破局っぷりを知っているユキとしては、新たな突っ込みどころになること、請け合いだ。

「け、…んもく先輩と俺が廊下で話してたの、偶然見たんだって」

相当苦しいな、これ。廊下で話し込んだことなんてない、精々すれ違って挨拶を交わした程度だ。案の定、幼なじみは疑わしそうに眉を顰めた。

「…自分で、渡せばいいのにね。別に斗与の手を煩わせなくても」
「まあまあ、そういうもんなんだろ。―――俺には、良くわからないけれど」

付け足した卑怯臭い言い回しにユキははっ、とした。疑念に強張っていた表情が、済まなさそうなそれに変わる。腕が伸びてきて、大きな掌が、遠慮がちにそして優しく、俺の頭を撫でていった。うっすらと浮かべられた笑みがやたらに大人びていて、言葉を失う。

「そんなことない。斗与はわかってる」
「…………」

頭に乗かった手を剥がし、弁当ごと平たい胸へ押しつけた。ユキを長い間見上げていると首がとんでもなく痛くなる。それから時々だけれど、目じりの辺りがぴりぴりと熱を保つ。言い聞かせるつもりはない、ただ、「帰る」と呟くと、庇うようにあった姿はゆっくりと離れていった。

開放される安堵感と本当のことを明かさなかった気まずさで、実に複雑な気分だ。この一件が片付いたら密かな贖罪に何か言うことを聞いてやろう。「何かしてやるから何か言え」と唐突に切り出す度、困ったように(多分実際困っているのだ)笑うユキの顔は嫌いじゃない。


そんな珍しくもしおらしい思いは、昇降口まで送る、送るったら送る!と駄々をこねる阿呆に見事粉砕された。対ユキに割合有効な新蒔を捜すも、奴は既に帰った後だった。帰宅部のインターハイがあったら間違いなく表彰台だな、新蒔よ。
教室に残ったクラスメイトは極僅かで、しかも連中は生暖かく俺たちを見守って下さっていた。青春は短い、用が無いなら帰れ!俺も含めだが!
埒があかないので地学部部室までユキを送り、下校と相成った。これ絶対おかしい。何か間違ってる。あいつは嬉しそうに始終締まりなくへらへら笑っていたのでむかつきは倍増だ。もうチャラだ。チャラ決定。俺は何も悪いことなんてしていない。

そんな涙ぐましい尽力を嘲笑うかのように、一人で帰る道々、肩に引っかけた鞄はやたらに重かった。
他ならぬ俺自身の弁によって存在に正当性を持った封筒は、泣きながら重くなるどこかの妖怪みたいに俺を捕まえて離さなかった。


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