昼の皸(5)



「なんか、あったんでしょ。厭なこと」
「同じことは何回も言わないって、さっき言っただろ―――って、結局は言ってるのか、俺は。どうしようもないな」
「とよちゃん、」
「ちゃんは無し。ちょっと、放っといて。考えてんだよ、ちっさい脳味噌で」

放っておいてくれ、と言いながら、彼の重みは僕から離れていかなかった。
嬉しい、切ない。苦しい。かつえている。


(お腹が空いてしまう。)


身を退くべきなのに、僕は一時の幸福感に負け、斗与に懐いたままで居ることにした。休み時間が終わるあと数分、夢みたいなものだと自分に言い聞かせながら。
同級生は最早慣れてしまったらしく、通りがけに「斉藤、潰れんなよ」などと斗与をからかっている。応える斗与の声はやはり投げ遣りだった。これは、おおごとだ。
聞き質す為に部活をさぼろうか、と思いあぐねていたら、携帯で写真を撮ろうとしている女子に、お金を要求していたシャケと目が合う。
シャケの口がぱくぱくと動いた。斗与は茫と前を向いたままなので、僕たちに気付いた風はない。
眉を寄せてその動きを追う。

(「サ、ギ、サ、カ」)

斗与を抱えていない方の手の人差し指を立て、自分の唇に蓋をした。シャケが明かそうが、僕から伝えようが、斗与が今、希んでいないのであれば、特進科生の話をするのは適当じゃない。ああ、でも万が一、サギサカ某が、あの封筒の中味が―――、

「ユキ」
「……あ、うん」
「今日、部活ちゃんと出ろよ」

俺は帰るけど。
すげなく告げられた放課の予定に、僕は首肯するしか術を持たない。それでも、今度は、家に帰ってからどうやってこの件を話すきっかけを持つか、頭は勝手に計画を練り始める。体躯は彼に寄り添って、心は渇きを訴えて、思考はひたすら冷静だ。

斗与にくっついても、くっつかなくてもバラバラに解体されてしまうのなら、くっついていた方が善い。尚更に華奢な身体に力を込めたら、シャケがばりばりと頭を掻いていた。チョコレートの銀紙をうっかり噛んでしまったような面相に、重傷ってこういうことかとようやく納得した思いだ。

6時間目の現代社会はひたすら教科書を熟読して過ごした。内容は勿論頭に入っていない、字の形を追い掛けるだけの1時間だった。自家発電してしまった欲を冷ます目的で、地球温暖化防止のために僕たちがしなくてはならないことを、何回も繰り返し読んだ。
合間に横目で確認した斗与は、ノート一面にてるてる坊主を量産していた。シャケは全力で寝ていた。


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