彼は人間である(レミリア)
「ねえ、人間であることに、なんのメリットがあるの?」
思いきってそう問い掛けて見れば、彼はあからさまに顔を歪める。
知っているのだ。彼が魔理沙と同じでいたいと思っている事くらい。知っていて、私は問い掛けるのだ。
「幻想卿には、人間でなくなる方法なんていくらでもあるのよ」
「でも、おれは人間でいたい」
「知ってるわ」
私は知っているのだ。彼が人間であることを恨んでいることくらい。彼が私と一生一緒にいたいと願っていることくらい。知っていて、問い掛けるのだ。
私は彼が好きで、彼は私が好き。そういう関係は築けるはずなのに、人間と吸血鬼というだけで成り立てない関係。悔しい。今すぐ彼の血を飲んでしまいたい。
「どうしておれは、人間なんだろうなあ……」
そう呟く彼の顔は、今までで一番歪んでいた。苦しんでいた。
彼が人間を辞めようと、魔理沙はきっと何も言わないだろうに。彼の寿命が延びれば、喜ぶ人が沢山いるだろうに。一体何が、彼を人間に留まらせているのだろう。私には、それが不思議でならなかった。
「……」
紅い色をした紅茶が、ゆらゆらと揺れていた。