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わかさぎ姫の失恋


小石集めをしながら、ふと空を見上げると、見慣れた金髪が太陽に照らされているのが見えた。思わず「あ……」と手に持っていた石が音を立てて崩れる。空を箒に跨って格好良く飛ぶのは、彼と、あと私のことを天ぷら呼ばわりする彼女しかいない。
彼は頻繁にこの霧の湖にやってきて、妖精達と戯れている。彼と、彼の周りの妖精達はいつも笑顔で、私もそれに加わりたいと何度願ったことか。しかし私はこの小さな湖に住まう人魚で、彼は大きな空を自由に飛び回る人間だ。不釣り合いにも程がある。
それに私は、彼の名前を知らない。笑顔が素敵な男の人、という認識だけで、私も彼も、お互いのことを全く知らないのだ。
すると、彼に引き寄せられるように氷の妖精が彼に近づいていく。彼は現れた氷の妖精を見ると、ぱっと明るく笑った。

「お! チルノ!」
「あー! 夜月だ!」

私は思わず二人を凝視する。彼の名前らしき単語が耳に入ったからだ。夜月。それが、彼の名前だ。いつもは私に悪戯を仕掛けてくる妖精に、今回ばかりは感謝した。
後に大妖精がやってきて、あの二人に混ざって話し始めた。また、あそこは笑顔に包まれて見てるだけで温かい。それなのに、胸がちくりと痛んだ。

その痛みに耐えられなくなった私は、目から水を零した。ああ、どうか夜月さん、悲しく泣く寂しい人魚に、どうか気付いて。




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