闇に溶けない(紫)
※結構シリアス


紫さんは、決まっておれが落ち込んでいる時に姿を現す。それはおれを元気付ける為だとか、慰める為ではないのだとおれは確信している。なんでもお見通しだと言うように彼女は言うからだ、「その解決法を知っているわよ」と。

おれは人間だ。妖怪でも、妖精でも、魔法使いでもない。非力で、ひ弱で、儚く脆い、人間という種族。妹の魔理沙はおれと同じでありながらも、おれとは違う。彼女は強い。そこらの妖怪なんぞ簡単に蹴散らせてしまう。そんな彼女に憧れに似たものを感じながらも、おれは彼女と同じになろうとしなかった。
理由はおれにもよく分かっていない。ただ、人間でありたかった。

ここ幻想郷で暮らす人間といえば、大抵は人里の者だ。しかしおれは、魔理沙と同じ魔法の森に住んでいる。人間といえども魔法の知識は少し備えている。魔法を扱う者からすれば、この森はいいエネルギー源だ。

そう、おれは普通の人間ではない。しかし、人でありながら人から外れた存在。人から外れた存在でありながら人と同じ。そんな中途半端な立場におれは居た。
しかも、ここに住まうものは弾幕ごっこをするのが普通と化している。それがで出来ないおれは、いつ死んでもおかしくない。

だからおれは、孤独だった。

「その解決法を知っているわよ」

また彼女が現れた。妖艶な笑みを湛えながら、その奥に何かを潜めている。弧を描いた目が、おれを見つめていた。

「人間をやめてしまえばいい、って言うんでしょう」
「ええ、よく分かっているじゃない」
「そりゃあ毎回聞かされていれば、ね」

いつものように笑顔を向けてみるものの、それは力が入らずに苦笑になった。そんなおれを見て、彼女は笑う。

「貴方が人間をやめれば、幻想郷はもっと素敵になる気がするわ」
「はは、それは大袈裟ですよ」
「いいえ、貴方は自分がどんなに愛されているのかを知らない」

愛されている、だなんて。おれが不死になれば皆が喜ぶなんて。そんな事を言われてしまうと、誘惑に負けそうになる。
彼女の細く綺麗な指輪が頬を撫でた。
しかし、おれは、人間でいたい。命の尊さを、感じていたい。おれは人間だからこそ、弱く儚いからこそ、おれはおれでいられる気がするんだ。だから、だから。

「おれは、人間でいます」
「ふふ、そう言うと思ったわ」

彼女は残念そうに笑うと、姿を消した。





bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -