二人の寝息(鈴仙)
雪の降る永遠亭は異様な静けさで包まれていた。輝夜と妹紅のバトル音も聞こえないし、てゐも何処かで寒さを凌いでいることだろう。そんな中で鈴仙はざくざくと音を立てながら一人雪かきに追われていた。どうやら人里での病人が多いらしく、他の兎たちは殆どそっちに出回っていた。ここに残った兎も寒さにやられ、残るは鈴仙だけなのである。
雪かきはかなりの力仕事であり、彼女は冬だと言うのに額に汗を滲ませていた。はあ、と息を吐くとそれは白く染まり消えていく。

腕が痛くなって、鈴仙は一旦スコップを置き、膝に手をついて休むことにした。彼女の耳は限界と言うように垂れ下がり、手袋も何もしていない手は真っ赤に悴んでいる。雑用は慣れっこだけれど、やはり雪かきは辛い。と彼女は弱音を吐きそうになり、しかしそれを喉の奥へ流し込んだ。
彼女の師匠である永琳には「無理をしないように」と言われているが、折角ここまで頑張ってきたのだ。最後まで成し遂げたい。そんな思いに負けないよう、鈴仙が弱音を吐くことは無かった。

立ち上がり、くしゅん! と何度目かのくしゃみをする。すると、首にふわふわとした何かが絡まった。彼女は驚くが、すぐにそれがマフラーだと感知した。誰かの温もりが残るマフラーに沿って後ろを振り向くと、そこには夜月が微笑んで立っていた。それを見た鈴仙の顔がみるみるうちに笑顔を取り戻していく。

「夜月さん!」
「よう、手伝いに来たぜ」

そう言うと夜月は着ていた手袋とマフラー、それと上着を全て鈴仙へと渡し、雪の山に積もるスコップを抜き手に持った。

「え、え? ちょっと、夜月さん」
「ん?」
「いや、これは私の仕事ですし……それに、それでは夜月さんが風邪を引いてしまいますよ!」

そう言って巻かれたマフラーを解こうとするが、それは夜月に阻止される。

「それは鈴仙も同じ。こんな寒い中汗を放って置いたらすぐに風邪引くよ」
「でも、」
「いいの、いいの。力仕事は男に任しとけって。その間、汗流しな」

一度言ったらその意見を絶対に押し通す夜月を知っている鈴仙は、不満気な顔をしながらも頷き、背中を向けた。
そのまま永遠亭へと入っていく彼女の背中を夜月はとても満足そうな顔で見つめていた。

◆ ◆ ◆

鈴仙は目を覚ます。あれ? という疑問を抱き、横に感じる温もりを見つめた。
彼女は寝床に居る。あれからどれくらい時間が経ったのか分からないし、どうして此処にいるのかも分かっていない鈴仙は、横の温もりが夜月であることすら認識できずにいた。

確か私は雪かきをしていて、そこに夜月さんが来て、雪かきを彼に任せて汗を流しに行った。そこまでは覚えている。そこから何故、寝床に行ったのだろう。はっ、まさか。
と、そこまで考えた鈴仙は隣の人物を思いっきり突き飛ばした。

「うおっ!」

彼は顔から思いっきり床に激突する。そんな姿に慈悲なく鈴仙は叫んだ。

「ね、寝込みを襲おうなんて外道です!」

そう言って彼女は手を銃の形に構え、弾幕の準備をする。その気配に気づいた夜月は急いで立ち上がり、彼女に向き直る。焦る夜月をはっきり認識した鈴仙は、驚いて手を下した。

「な、夜月さん!?」
「そ、そうだよ、おれだよ。まったく」

幸い鼻血などは出ていないが、彼の顔は真っ赤になっていた。きっと顔を打ったときの跡だろう。鈴仙は顔を真っ青にして、頭を下げる。

「ご、ごごごごごめんなさい! つい反射的に……」
「まあ、そりゃあ殺されそうだと思ったらそうするよね。平気平気」
「殺され……?」
「まあ、おれ魔法使いだけど魔法下手だし弾幕も打てないから、鈴仙を襲おうとしても無理だけどね」

あはは、と笑う夜月。鈴仙の思った「襲う」と夜月の思った「襲う」はまったく違う意味なのだが、それに気付いたのは鈴仙だけである。しかし気付いた鈴仙の顔は、真っ赤になっていた。真っ青になったり真っ赤になったり忙しいものである。
そんな茶番を振り払うように、鈴仙は「ところで!」と口を開く。

「では私は、どうして寝床に……」
「ああ。お前、疲れていたのか風呂場で寝ちゃっていたらしいよ」
「ええ!?」

記憶が曖昧だが、確かに風呂からの記憶が無い。また彼女は恥ずかしくなって、今度は耳が垂れた。

「見つけたのは永琳で、服を着せたのも彼女だから安心してね」
「わ、分かっています!」
「で、それを聞いたおれが今日一日くらい休ませてあげてって、彼女に頼んだんだよ」
「夜月さん……」
「永琳も言ってたよ「ゆっくり休みなさい」ってさ」

師匠と夜月の優しさに涙が出そうになった鈴仙は、毛布で顔を隠す。しかし夜月にそれを取られ、彼女は布団に横にさせられた。

「じゃ、おれは外を手伝ってくるから」
「だ……ダメです!」

彼女は思わず叫んでいた。風邪でも何でもないのに、彼が居なくなることに寂しさを感じたからだ。

「夜月さんも、休むべきです」
「でも……」
「い、一緒に居てください!」

そう本音を言ってみれば、彼の頬が微かに赤く染まる。そして、遠慮がちに夜月は布団へ入っていった。近づく体温に、鈴仙は何かが満たされる感覚に陥る。ふわふわとした気持ちの中、「おやすみなさい」と言えば、隣からも「おやすみ」と返ってきた。

二人の寝息



bkm
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