惚れましたから(早苗)
夜月は朝の空気を楽しんでいた。幻想卿の空気はいつも美味しいものであるが、彼は朝の空気が大好きだと言う。夜は彼の天敵や、悪戯好きの妖精が飛び回っていたりするけれど、しかし朝は人気も妖怪の気配も多くは感じない。そんな平和な空を、彼は綺麗な金髪をなびかせながら箒にまたがり飛んでいた。

ふらふらと飛び回った結果、夜月は守矢神社へと辿り着いていた。特に目的があった訳では無いが、無意識の内に着いていたのだ。
参拝でもしてくか、とそこへ降りると、「夜月さーん!」と彼へ駆けてくる少女の姿があった。

「よう、早苗」
「おはようございます!」

彼女の手には彼と似た箒が握られていた。きっと神社の掃除でもしていたのだろうと夜月は察するが、しかし話を繋げる為に「何していたんだ?」と問うた。

すると彼女は朗らかに笑い、「奇跡を見ていました」と言った。予想外の答えに、夜月は首を傾げる。彼女は可笑しそうに笑って、空を見上げた。

「今更ですけど、この幻想卿は奇跡そのものの様な気がしたんです」
「奇跡、ねえ」
「誰からも愛されるこの世界は、本当に奇跡ですね」

そう言う彼女の目は、きらきらと輝いていた。早苗もこの幻想卿を愛している者の一人なのだ。きっと彼女は、起こす奇跡より起きた奇跡の方が素晴らしいとでも考えているのだろう。幻想卿に住まう者の苦労によって起きた奇跡。妖怪も人間も神様も一緒に暮らせる世界。奇跡を起こす彼女には、それが本当に輝いて見えた。

すう、と大きく息を吸い、長く吐く。そんな一連の動作を早苗は繰り返すと、夜月に微笑みかける。

「夜月さんは何をしていたのですか?」
「おれも奇跡を見ていたよ」
「あら、私と同じですね!」

今日の早苗は一体どうしたのだろう、と夜月はそう思う。何か、幻想卿を奇跡だと思える出来事があったのだろうか。そんな疑問を抱えながら、夜月は彼女の話に合わせていく。

「朝の空気がとても好きなんだ」
「偶然ですね、私もです。朝にこうして神社の掃除をしていると、いつもそう思います」

そして早苗は、また深呼吸をして見せる。それに合わせて夜月も大きく息を吸った。美味しい空気が腹を満たす。
すう、と息を吐いた後、彼女は手を胸に当てた。

「それと、ここに来てから私にも、奇跡が起きたんです」
「なに?」
「貴方や、皆に出会えた」

ゆるりと微笑む早苗の顔が、朝日に照らされる。それが綺麗だからか、夜月は彼女をじっと見つめていた。

「私、外の世界では味わったことの無かった『恋』という感情を今、抱いているんです」
「へえ」
「周りの友達は皆、恋と言う感情を存分に楽しんでいたんです。けれど私は、誰にも愛しいなんて感情を抱けなかった」

すると彼女は箒を地面に置き、その温かい両手で夜月の掌を包んだ。

「しかし私は今、貴方にそういう感情を抱いています」
「……え」

彼は驚き目を見開く。唐突な告白ともとれる発言に、彼の頬が少し紅くなった。

「あの時、抱けなかった感情が、いま芽生えているんです」
「あ、あの」
「もし貴方と私が運命の赤い糸で結ばれていたとしたら。貴方と出会えたことが奇跡だとしたら!」

そんなメルヘンチックな言葉を口にし、早苗は夜月へ抱き着いた。しっかり受け止める夜月であったが、しかし頭は混乱状態だった。

「それが奇跡だとしたら、私達は結ばれるべきですよね!」

と言うわけで、



……マジかよ



bkm
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