2

縄のようにきつく縛られた手首。拘束するシャツが食い込み、幾度も擦れた為に傷ができ、血が溢れ出した。擦過傷は酷い痛みを与えないが、じわじわと来る鈍痛に責め苛まれ、苦しめられる。
そして腕と同じくきつく縛られた花芯からは、僅かに蜜が溢れていた。

「…ぁ…やめッ……ぅ…い゛…あ゛ぁっ」

ザンザスに押し倒され、自由の利かない綱重は為されるがままだ。彼の体には無数の痣が浮かび、所々で鬱血さえしている。望まぬ行為に彼が抵抗した証だ。

ザンザスは嫌がる綱重を力で捩じ伏せ、慣らしもせずに一気に貫いた。本来受け入れる器官ではないそこに獰猛な雄を無理に受け入れるのは苛酷だ。
無理矢理体を貫かれ、引き裂かれる痛みに綱重は悲鳴と共に涙を流す。恋人の悲鳴を聞いてもザンザスは意に介さない。
獲物を前にした肉食獣の如く、真紅の瞳を獰猛にぎらつかせ肩に噛みついた。途端綱重の口から更なる苦痛の悲鳴が上がる。

「ああ゛っ!」

鋭い犬歯が柔らかな皮膚を破る。溢れる血を舐めてザンザスは気まぐれのキスを首に落とした。
綱重の血の味と臭いに、甘美に似た痺れがザンザスの脳天を突き抜ける。
ザンザスは綱重の血と悲鳴に興奮していた。

キングサイズのベッドを揺らすまでの激しい律動に、綱重は苦痛と快楽の喘ぎ声を出し続ける。律動に合わせて眦から涙がぼろぼろとシーツに落ち、それを捉えたザンザスが苛立って舌を打つ。

綱重は身も心も張り裂けるぐらいに苦しかった。愛する人に乱暴にされるなんてっ。

晴れて恋人となり、幹部達にも関係を知られたその夜、はじめて彼の全てを受け入れた。
とても辛かったが、あの時は互いが望むものを理解し、互いに与え合い、何もかもが繋がって全てが満たされた瞬間でもあった。

幸福。

陳腐だろうが、綱重の心は真にそうだったのだ。だが、今は――。

「ぃっ…ぃあ゛…ぁ…ぅっ…ああ゛っ」

引き裂かれる体、痛みの間に強制的に昇らされた快楽、欲望の果てなき滞留。

涙は枯れる事なく溢れ、無様に垂れ流しの涎と共にシーツに染みを作る。せめて情けない顔は見せまいとシーツに埋まったが、ザンザスはそれが気に入らず、舌打ちして綱重の髪を掴む。力任せに引き寄せた彼の耳の傍でザンザスは囁いた。

「…くだらねえこと考えてんじゃねえ」

「…え……んぁっ…」

耳の中に舌を差し入れられ、深いところまで犯される。貝殻のように凸凹した複雑な形の中を、唾液をたっぷり含んだ舌が舐め回し蹂躙していく。
嫌である筈なのに、体はザンザスから与えられる快楽に従順だった。
口からは絶えず嬌声が上がるも、ザンザスの言葉が綱重の意識に引っ掛かっている。くだらねえとは一体?

内心に浮かんだ綱重の疑問にザンザスは答えるように言葉を紡ぐ。

「…何を言われたか知らねえ。これからなんざ知ったことじゃねえ。…だがな、テメーは俺のもんだ。それだけは変わらねえ」

「!」

感情を抑圧した重く低い声が静かに言葉を紡ぐ。

綱重にとってザンザスの言葉は、何物にも代えがたい力を秘めている。例えどのような悪意に満ちた言葉を浴びせられようとも、決して傷付ける事の叶わぬ絶対不可侵の守り手。

弱者の理屈だと他人(ヒト)は言うかもしれない。それでも、だからこそ綱重は生きていける。
彼からどれだけ邪険にされようとも離れず、陰ながら支えようとしたように。

――どうして…今まで忘れていたんだろう。こんな簡単なこと…。

忘れてしまっていたものを、愛しい人が思い出させてくれた。涙が浮かぶ。
歓喜と感謝を涙に変え、綱重は体を捻りザンザスに口付けた。苦しい体勢だったが構わない。
突然のことにザンザスの動きが一瞬止まった。肩を押さえ込まれていた力が緩まった隙に、綱重は自らザンザスに密着する。

肉厚の唇に綱重は甘く噛みついた。涙に濡れた睫毛が、甘い蜜に群がる蝶の触覚のように、艶やかな黒い光沢を放つ。

綱重の熱情に呼応して舌が熱く湿り、ザンザスの唇をゆっくりと舐めた。唾液に濡れるそこから彼の熱情が伝わり、ザンザスの脳が痺れる。
切なくも甘い痺れに堪らず、今度はザンザスが綱重の舌に噛みついた。傍にある温もりにすがり、舌を吸い、甘い体液が渇きを潤していく。
離れることを拒み、恐れるように、ザンザスは綱重を更に強く抱き締めた。
その姿はまるで、この温もりは自分だけのものだと母にすがる赤子のよう。

この瞬間(トキ)二人に言葉は要らなかった。お互いの行動だけで全てが伝わったのだから。

二人の胸が重なり、鼓動が溶けて混じり合い一つになった。


×


カーテンから溢れる一筋の光の眩しさに、ザンザスの意識が眠りの淵から浮かび上がる。眠りを妨げられた不快さと微睡みの心地よさの半々の中で、自身の側によく知る温もりが無いことに気付いた。急いで起き上がり、ベッドや室内を見回したが姿はない。
その事実に舌打ちし、ザンザスはベッドから飛び出した。彼がらしくもなく焦燥を抱いてそのような行動を取ったのは、夜のことがあるからだ。

恋人にあれほど手荒な真似をしたのはいつ振りだろう。もしや心が傷付いて出て行ってしまったのでは…。

するとカチャ…、と執務室から物音が聞こえてきた。ザンザスは急いでそちらへと向かう。そしてそこに居たのは、朝食を持ってきた綱重だった。盆を机に置いたところで突然ザンザスが部屋に入ってきたものだから、少し驚いているようだ。

ザンザスは綱重の姿を確かめるように暫し見つめ、そして彼を抱き締める。彼もまたすぐに抱き返してくれた。

「……ドカスが…」

ザンザスの口から常に出る罵言が、今はどこか弱々しく聞こえられた。
綱重は彼の逞しく力強い腕を感じながら、素直に謝る。

「ごめん…」

ザンザスをこれほどまでに不安にさせたのは自分だ。自分の愚かな考えが彼を傷付けてしまった。
だから悪いのは自分だ。ザンザスからどのような扱いを受けようとも、彼は何一つ悪くない。

綱重の謝罪に何を感じ取ったのか、ザンザスは彼と視線を合わせた。綱重の琥珀色の瞳には不安と罪悪感、そして言葉では表せない強く優しい想いがあった。

それだけで充分だ。言葉など不要。綱重との関係が茨であろうがそんなことは関係ない。
ただ互いに望み、願った形がそうであったに過ぎない。

ザンザスは再び綱重を抱き締めた。

開け放たれた窓から風が吹き、カーテンが揺れて一日で最も柔らかい光を放つ朝日が見える。

暖かな陽の光が部屋に射して、二人を柔らかく包み込んだ。

END.

12/04/29


top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -