おまけ

堅材の執務机に置かれた銀色の盆。そこには朝食があり、乳白色のマルガリーナが塗られたきつね色のトストが目を惹いた。
トストの香ばしい匂い、とろりと溶けていくマルガリーナ。僅かに残った乳白色の塊が滑り落ちる光景に食欲がそそられる。
コーヒーからは白い湯気が立ち昇る。常とは違い、薫りの良さがないのは綱重が淹れたからなのだろう。トストにも黒い焦げが目立っていた。彼が作ったものでなければ、ザンザスは作った人間は勿論のこと、持ってきた人間もかっ消しているところだ。

それは別にいい。問題はない。問題があるのは、白い皿に盛られた黒い山だ。所々に黄色が見られるのは、それが本来の色だからだろう。きっと綱重はウオーヴォ・ストゥラパッツァートを作ろうとしたに違いない。

「……」

「ちょっと失敗したんだ…」

ちょっとどころではない。かなり失敗している。
ヴァリアー専属のシェフは超一流の腕がなければならない。そうでなければ、ヴァリアーの頂点に立つザンザスの舌を満足させられず、周囲だけでなくシェフ自身も危険な目に遭うからだ。
だからこそ専属のシェフが作ったものであれば、その超一流の腕と絶妙な火加減で作り上げた、見事な半熟のウオーヴォ・ストゥラパッツァートがザンザスの前にあったことだろう。

「勿論、要らないならいいんだ。ザンザスだってこんなの食べたくないだろうし…」

そう言って綱重はしょんぼりして泣きそうな顔を浮かべた。
恐らくルッスーリアやシェフの手を借りず、苦心しながら意固地に一人で作ったのだろう。そして何度目かの失敗の後に、漸く形になったのが目の前の“黒い山”なのかもしれない。

だからと言って何故誰も、この黒い山を自分に出すことを止めなかったのだ。

ザンザスの中で炎が揺らめいたが、シャツの袖から手首の痛々しい赤い痕――夜、ザンザスが情事の際に付けた傷が見え、一瞬にして鎮まった。
だが今度は怒りとは違う感情で、ザンザスは微かに眉を寄せる。視線に気付いた綱重が慌てて後ろに隠した。

「こんなの何でもないよ。それに悪いのは僕の方なんだから。む、寧ろ、僕はザンザスのものなんだって証みたいで…ちょっと嬉しいんだ…」

目の前に恋人がいると言うのに綱重は頬を朱に染めてノロケる。
そんな彼を横目に見ながら、ザンザスは黙ってフォークを握った。

「……」

「っ!?食べてくれるの!」

綱重の表情が百八十度変わった。喜びと期待にきらきらと瞳を輝かし、ザンザスを見つめている。

「……」

恋人の嬉しそうな表情を見ながら、やはりザンザスは黙ったまま、黒い山にフォークを刺し入れて掬うように持ち上げた。

END.


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