聞きたいこと

「あの炎は何?」
 雲雀は遠回しに何かを尋ねることは好きではないらしい。綱重もまた、無駄なおしゃべりは嫌いだったし、それを尋ねられることは覚悟していたので、単刀直入な言葉でも不快に感じなかった。
 ――しかし答えられるかどうかは、それとは別の問題だ。
「知らない」
「自分のことだろう」
 はぐらかすのは許さないと言うように、僅かに雲雀の声が低くなる。小さく溜め息を吐いて綱重は居住まいを正した。
「生まれつき、たまに手から噴き出す。何かは知らない」
「たまに?」
「……怒ったとき、とか」
「ふうん。つまり、さっき君は怒っていたのか」
「っ、いきなり殴られて怒らない奴がいると思うか?」
「さあ。大抵、すぐに気を失うからね。怒ってるかどうかなんて確認出来ないよ」
 そう言って雲雀は笑った。
 言っていることはとんでもないのに、その笑顔があまりに綺麗で。
 いきなり人を襲うようなイカれた頭をしていなければ、きっとモテただろうに――思わずそんなことを考えてしまう。いや、無愛想な自分にも女の子たちは群がるのだからこんな奴でもモテるのかもしれない。
 よもや綱重がそんなことを考えているとは思わないだろう、雲雀は薄く笑みを浮かべたまま、書類を捲った。
「確かに、弟は並中に在学しているようだね」
 どうやら綱重だけではなく弟の綱吉についても確認したようだ。学校の違う綱重よりも簡単に調べられたに違いない。
「彼も君と同じ能力を持っているのかな」
「っ、まさか!」
「どうしたんだい?」
 雲雀は、急に立ち上がった綱重の顔を覗きこんだ。しかし綱重はすぐにフイと顔を逸らし、またソファーへと沈み込む。
「……弟は、俺と違って普通の人間だ」
「そう。それは弟に直接確かめたのかい?」
 緩く横に頭が揺れる。
「じゃあ、わからないじゃないか。――遺伝ということもあるかと思ったんだけどね」
 綱重が、バッと顔をあげる。
「そんなこと、あって堪るかっ」
「どうしてそう思う」
 綱重の声が震えていることに雲雀は気がついたが、触れることはしなかった。震える手がまるで何かを守るかのように拳を握るのを見つめる。
「こんな……こんな、気味の悪い、……俺だけで、十分だ……っ」
 振り絞った声でそう言ったあと綱重は一度頭を振った。そして次に雲雀の顔を見上げたとき、綱重は。
「――誰かに言い触らしたいなら、すればいい。こんなこと誰も信じないだろうからな」
 ハッと嘲るような笑いを零しながらも、綱重の目は、雲雀をきつく睨み付けていた。
「ただ、俺の家族にまで手を出すっていうなら、」
「そんなことするつもりはない。僕が興味あるのは君だからね」
「え、」
 机の上に書類を放りながら、雲雀はそっと綱重へと近づく。そしてソファーの背もたれに手をかけると、屈み込むようにして驚きの表情を浮かべている顔を上から見つめた。
「僕は、気味が悪いとは思わなかったよ。沢田綱重」
「……!」
 一瞬で頬が熱を帯びるのを綱重は感じた。手からではなく顔から炎が噴き出したのかと思ったくらいだ。
 間近から向けられた優しい微笑みから逃れるように、綱重は顔を背ける。
 ――しかし、顎を掴まれてすぐに戻されてしまった。カアッと一層顔が熱くなって思わず目を瞑った。
(嫌だ……!)
 幼い頃から、炎が手から噴き出すことのないよう感情を抑え込んできた。それなのに、この雲雀という男の前では何故か制御がきかない。自分が現在どんな顔をしているか想像もつかなかったが、酷くみっともないだろうことだけは自覚があった。見られたくなくて。それなのに彼は無理矢理暴こうとしてくる。恥ずかしくて、許せなくて。
 嘘だと解っているのに。だって自分ですら気味が悪いと思っている。だから雲雀の言葉は嘘だと解っているのに、なのに。
「目、開けなよ」
 不意に耳元で囁かれて、体が跳ねる。そしてその拍子に、言われた通り瞼をあげてしまっていた。


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