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「あなたがやったことでは、ないのでしょう」
「……何?」
「確かに、あなたが関わった証拠は残っている。ボンゴレ本部に頻繁に出向いていた記録が残っているし、データによれば9代目専用機を日本に飛ばしたのも、坊っちゃん、あなたです。……だが、あなたは何も関わっていないはずだ」
 綱重の眉が不快そうに歪んだ。
「何を、根拠に」
「そのような証言があります」
 綱重は慌てなかった。ターメリックの言葉が単なる引っ掛けであるという確信を持っていたのだ。
 ベル、ルッスーリア、レヴィの三人は、モスカの動力源については何も知らなかったはず、証言など出来るはずがない。そしてスクアーロは何よりもザンザスを優先する男だ。ザンザスの処分が軽くなるのであれば、『綱重が指示した』とまでは言わなくとも、否定はしないはずである。
 そしてマーモン。データの改竄を手伝い、綱重の考えを唯一知る人間だが、あの計算高い赤ん坊がそれらを話すわけがない。ザンザスの命令で自分が関わったなどと口が裂けても言えないだろうし、綱重一人に罪を被せた方が都合がいいと思っているはずだ。
 余裕の表情でターメリックを見返した綱重は、しかし次の瞬間、顔を引き攣らせた。

「ザンザスが、あなたは計画には何も関わっていないとはっきり明言致しました。全ては自分が行ったことだと」

 ――嘘じゃない。ターメリックは嘘を言っていない。
 今まで何かを間違えたことはない、自分の中の直感がそう告げていた。けれど、とても信じられなかった。なぜ。どうして。

 青ざめ、言葉を失ってしまった綱重に助け船を出したのは、ターメリックだった。
「嘘だと?」
 なんとか小さく頷いた。
「では、何故ザンザスはそんな嘘をついたと思いますか」
「…………プライドの、高い男だから……僕に動かされていたなんて、認めたく、ないんだろう」
「なるほど」
 ターメリックは感心した様子で頷いた。だがすぐに表情を引き締めると、ずいと身を乗り出すようにして綱重の顔を覗き込む。
「――九月に、マレ・ディアボラで行われていたパーティー会場が謎の武装集団に占領された事件がありましたね。管理を任されていた部隊が犠牲になったものの、ザンザス率いるヴァリアー隊が見事鎮圧し、人質にされた同盟ファミリーの者たちは無事に解放され、解決した事件です」
「……それが、なに、」
「では、殺され屋のモレッティという男をご存知ですか?」
 再び変わった話題に目を白黒させながらも、綱重はターメリックの真剣な表情に気圧されて、言葉を返してしまう。
「たしか、自在に心臓を止められる……」
「ええ、その男です。彼は親方様の命により、ある幹部のことを探っていました」
「ある、幹部」
「はい。その幹部がイタリア軍と癒着し、武器の横流しを受けたり、新兵器の開発を行っているとの情報があり、その証拠を掴むために潜入捜査をしていたのです。疑惑の幹部の名前は、オッタビオ――マレ・ディアボラの管理を任されている男でした」
 知っている名前を聞き、琥珀色の瞳が僅かに見開かれる。
「オッタビオは軍人たちから武器を買い、更には、ある戦闘兵器の開発レポートを入手していました。その戦闘兵器がモスカ――しかし、9代目を動力源にしていたあれではなく、プロトタイプのヴェッキオ・モスカと呼ばれるものです。軍人たちは、オッタビオに完全なレポートの存在を知らせていなかった。そこまでの信頼関係はなかったのでしょう。事実、軍内部から調査の手が及んだ瞬間にオッタビオは彼らを切り捨てたようです。そして裏切られた軍人たちは、復讐心からオッタビオを狙い、マレ・ディアボラを襲撃して、ザンザスたちに倒された」
 綱重は、拘束衣に包まれた自身の手がじっとりと汗をかいていることに気がつく。暑いわけではない。逆に指先は痛いくらいに冷えきっていた。
「潜入捜査をしていたモレッティは全てを見ていました。完全版の開発レポートを手にしたヴァリアーの姿を、オッタビオを処刑するザンザスを」
 ターメリックはそこで一度言葉を切った。
 息を吐き、真っ直ぐに綱重を見つめながら、続きを口にする。
「モレッティの証言によれば、その場にあなたの姿はなかった。助かった人質たちにも確認をとっていますが、あなたを見たという人間はいませんでした」


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