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 唖然としている面々を気にした様子もなく、綱重の視線は倒れ伏したザンザスと弟を交互に行き来する。
「……相討ちで二人とも死亡、ってシナリオは少し無理があると思ってたけど、そうでもなかったみたいで安心したよ」
「なっ、お前、最初からそれを狙って……?!」
 息巻く獄寺を制止しながら、山本が口を開いた。
「あんた、この人数に一人でやるつもりかよ」
 綱重は答えずに、チラリと仲間たちを見やった。
「冗談きついって」
 そう言って引き攣った笑いを浮かべたのはベルだ。
「お前があの銃持ってんなら少しは考えるけどさ、持ってねーんだろ? 絶対ムリ。オレはやらね」
 綱重は小さく溜め息を吐くと、今度はマーモンに視線を向ける。小さな術士は首を横に振って返した。
「僕がお前にいくら払ったか忘れたのか?」
「料金分は働いたと思うけど」
「それはお前が決めることじゃない」
「もう諦めるべきだ。ここで終わりだよ」
 その言葉に、綱重の口元にフッと笑みが浮かぶ。
「まだ終わっていないぞ、マーモン」
 含みのある言い方だった。マーモンが口を開きかけるが、それよりも先にチェルベッロが言葉を発する。
「そもそも、こんなことは認められません。貴方は後継者候補ではない」
「それでも、綱吉がいなくなれば嫌でも9代目と門外顧問は僕を選ばざるを得なくなる――ああ、二人とももういないのか。まあいい。あの業突く張りな老人たちを説得するのはそれほど難しくもない」
「ッんなこと、させるわけねーだろ!」
 ダイナマイトを掲げ、獄寺が声を荒らげた。その後ろで、地面に突っ伏したままのツナが兄をじっと見つめる。綱重はそんな弟の視線に気づきながらも、表情一つ変えず、腰に下げた長剣に手を伸ばす。

『――う゛お゛ぉい!』
 もう二度と聞くことはないと思っていたその声に、僅かに琥珀色の瞳が見開かれ、剣を抜く手が止まった。
『やめろ、綱重! お前一人じゃ勝てねえ!』
『そうだ、馬鹿な真似は止すんだ!』
 スクアーロの声に続き、ディーノが叫ぶ。更には、
「すでに立っているのも辛いだろう。治療を受けるべきだ」
 ランチアまでもが。
 次々と掛けられる言葉に、綱重は顔を歪めた。
 何故、こうも上手く事が運ばないのだろう。もう少しくらい円滑に進んでもいいのではないか。大仰に溜め息を吐きながら、誰にも気づかれないようにこっそりとザンザスを見やった。
 確かに、早く手当てを受けさせるべきだ。
 時間は、ない。

「……るせえんだよ、ドカスどもが」
 低く、不遜な声。手本を思い出すまでもなく、綱重はごく自然に、全てを見下す嘲りの笑みを浮かべてみせる。
「ボンゴレのボスになるということは、全てを手中に収めるということだ。カスの言うことなんか、一々聞いていられるか」
 毅然とした揺るぎのない声音に、皆が息を飲んだ。特にその場にいる者たちは、本物の殺気をそこから感じ取り、僅かに身動ぎもした。
 ――唯一、彼だけを除いて。
「ふぅん。面白いじゃないか。君は、僕が咬み殺してあげよう」
 雲雀が好戦的な笑みを浮かべ、言い終えると同時に土を蹴った。綱重の口角がニィとあがり、体が迎え撃つ体勢をとる。
 二人の影が重なるまであと数歩。

「うあ!」
 唐突に、綱重が大声をあげた。その声の緊張感のなさに、思わず雲雀の足が止まる。
「ちょっ、待った! ちょっとタイム!」
 雲雀に向かい片手をあげながら、綱重が言う。
「あ、あれ? 無いな、まさか落とし……いやいやいや」
「――君、ふざけているなら、」
「ふざけてない!」
 言いながら、綱重は自分の服のあちこちを探っている。あまりに必死な様子に誰も口を挟めず、雲雀でさえ眉を顰めながらも成り行きを見守る。
「っ、あった……」
 ホッとした顔で胸元から取り出した、四角い、それ。
「何だい、それ」
 雲雀の問いに黙って微笑みを返しながら、綱重はそれに火をつけた。微弱な炎と言えど、なんの変哲もない素材を燃やすのに苦労はいらなかった。中にある写真ごと、パスケースが灰になるのを見送って、もう一度微笑む。
「さて、なんだったでしょう?」
 言い終わるやいなや、綱重は目前の雲雀ではなく、弟の元へと跳んだ。同時に引き抜かれた剣を見て、山本が一歩前に出る。
「剣なら俺だな」
 クッと綱重の唇が歪む。
 スクアーロに勝った男……その点では望ましい。しかし、この男は、とどめを刺してくれないだろう。
 それが、問題だった。


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