初めに感じたのは眩しさだった。薄く開いた瞼の隙間から痛いくらいの光が入ってくる。
「っ、」
「……起きたか。気分はどうだ」
突然掛けられた言葉に、一気に瞼を開け、そちらを向く。声の主は窓際にいた。逆光を受け、顔は見えないが、スーツに身を包んだ彼の立ち姿は一目で『同業者』だと解るほど洗練されている。ザンザスは慌てて身を起こそうとするが、体はそれについていかなかった。グラリと崩れかけた体を、いつの間にか隣に移動してきた男が支えた。
「まだ動くのは無理だろう」
「っ離せ、」
振り払おうとしたが、びくともしない。相手の腕は、男にしては細く見える。その見かけからは想像がつかないほどがっちりと押さえられていた。ザンザスの胸に愕然とした思いが沸き上がる。相手の力だけではなく、自分が弱っているのだということを一瞬で悟ったからだ。
(何が起こっている?)
この男が誰か。ここがどこなのか。自分はどうしてしまったのか。何もわからない中でただひとつ、混乱していることを気取られるわけにはいかない、ということだけはよく解っていた。紅い瞳が威嚇するように男の顔を覗きこみ――そして、見開かれた。
「……お前は……」
見たことのない顔。けれど、知らない顔ではなかった。
まさか。
いや、しかし。
そんなはずは。
困惑の視線を真っ直ぐに受け止めた男は、ゆっくりと口を開く。
「綱重、だ」
思わず息を飲む。
綱重という名前の人間を、ザンザスはよく知っていた。しかし綱重と言われてザンザスが思い浮かべる姿と目の前の青年は違う。青年。そう、そこだ。ザンザスの中で綱重は、青年ではなく少年と呼ばれる年齢のはずだった。
目前の青年と記憶の中の少年をなんとか重ねてみようとするが失敗する。いや確かに重なる部分はあった。その顔には少年の面影が残っていたし、少女のそれのように長い睫毛はそのまま、穏やかな瞳の色も変わらない。だが、それらを、それらが何を意味するのか、理解することを脳が拒否する。
堪えきれず、ザンザスは顔を逸らした。視界の端で記憶と同じ金色の髪が煌めく。
「覚えているか? あのとき、何があったか」
声は聞き慣れない低さでそう語りかけてくる。あの少年の鈴を転がすような声とは似ても似つかない。そのことに気をとられたわけではないが答えを返さずに黙り込むと、促すかのように強く手首を握られて、ザンザスは眉を顰めた。
「…………ドン・ボンゴレが一体俺に何の用なんだ?」
今度は綱重が、ザンザスの皮肉げに歪められた唇を見つめたまま黙り込む。
「おい」
促せば、小さな溜め息がひとつ。
「――僕は、10代目じゃない。すでに候補からも外されている」