14

 ゴーラ・モスカに抱えられている男の姿に、綱重は驚いて椅子から立ち上がった。ぐったりとしたルッスーリアの体から床に血液が滴り落ちていく。綱重が顔を顰めるのを見てベルが笑った。
「なんと、このヘンタイヤロー負けてやんの」
「明日の勝負は雷だそうだぁ」
 スクアーロが言ったとき、その雷の守護者はすでに奥の部屋へ向かう所だった。
「おい、ザンザスに報告するのは明日にした方がいい」
「ボスの名を口にするなと何度言えば……っ、何をしている!?」
 振り返ったレヴィが見たのは、モスカの手からルッスーリアの体を下ろす綱重の姿だった。
「こういう雑用は平隊員の仕事だろ」
「待てぇ。勝手なことはザンザスが許さねえぞぉ」
「そうだ。まずはボスにご報告を、」
「ボスはもうお休みなられたから、起こそうものなら殺されるぞ」
 ぐ、と黙り込むレヴィとスクアーロに小さく笑みを向けて、綱重は床にルッスーリアを寝かせた。息があるのを確認し、傷口を見ようと覗き込み――横に飛び退いた。
「またハズレた」
 つまらなそうなベルの声と、床に突き刺さったナイフに、綱重は小さく息を吐く。
「やめろ、ベル」
「だってお前、避けるから」
「言っている意味がわからない」
「大人しく当たったらやめてやるよってこと」
「死んだら、の間違いだろ」
「うししっ。お前普段はトロいくせして、まるで攻撃くるのがわかってるみたいに動くのがムカつくんだよね」
「――超直感で、実際に感じ取っているんだろう」
「でもボスのは避けられねーじゃん」
 口を挟んだマーモンに、些かムッとした様子で言い返すベルの視線は、綱重に注がれている。綱重は上手く隠していたつもりだろうが、ナイフを避ける動きがいつもより微かに鈍かったことを暗殺者の目が見逃すはずはなかった。
 出掛ける前にはそんな素振りはなかった。つまり初戦が行われていた今までの間に、何かがあったということだろう。何かが――大方、いや絶対に、ボスと。
 ベルの中で好奇心がムクムクと頭をもたげる。
 そもそも、綱重とザンザスはいつからどういった付き合いなのか、ベルだけではなく誰も何も知らないのだ。一月前にザンザスが復帰した際、二人に面識があることに隊員全員が驚いたほどである。
「それとも何? ボスからの攻撃はわざと避けないとか?」
 綱重がピタリと動きを止める。尋ねたくせに、ベルはひくりと頬をひきつらせた。
「え、マジかよ」
「んなわけあるか。避けられないんだよ。……今のも、な」
 そう言って掲げた手の甲には、ナイフについたワイヤーが切ったのであろう、一筋の傷があった。
「それ、威張って言うことかい?」
「黙れ。いいから幹部様たちはさっさと寝ろよ。こいつは僕が然るべき処置をしておく」
「然るべき処置、ねえ」
 含みを持ったベルの言葉にマーモンの声が重なる。
「弱者は消す、それがヴァリアーの掟だよ」
 無視して携帯を取り出す。しかしボタンを押す前にスクアーロの手が綱重の腕を掴んだ。
「『僕が』やるんだ。お前たちには何も迷惑かけない」
「――ここまで言っているんだ、好きにさせよう」
 これが理由で処分されたらいいと思っているのだろう、レヴィが言う。翌朝には敗戦の報告と共に、このことを嬉々としてザンザスに告げるに違いない。理由はどうあれ初めて自分に味方してくれているレヴィに、綱重は緩く笑みを溢した。


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