07

「リボーン、兄さんのこと知ってるんだな! なんで兄さんがあんな奴らと一緒にいるんだよ!」
 去っていった暗殺者たちと同時に、父やバジルも消えてしまった。唯一この場で事情を知っているだろう赤ん坊に、ツナは疑問をぶつける。聞きたいことは山ほどあった。父の職業、下された勅命――しかし今一番気がかりなのは、兄のことだった。
 9代目の息子だという男によって、思いきり地面に倒されてしまった兄。幸い意識は失っていないようだったが、話が終わるまでじっとその場に座り込んでいた。
「あ、あんなことされて……怪我してるんじゃ、」
「元気に走っていったじゃねーか。大丈夫だ」
「だって、すごい音がしたぞ!」
「あれ音と見た目は派手だけど実際は痛くねーんだ。あいつらプロだからな」
「プロってなんのプロだよ! お笑い芸人かよ! そんなわけないだろ!」
 まさにお笑い芸人のようにツッコミをしたあと、ツナはくしゃりと顔を歪めた。今にも泣き出しそうな瞳を閉じれば、瞼の裏に兄の姿が浮かんできてしまう。それは記憶の中の優しい表情の兄ではなく、銃をこちらに構えた冷たい暗殺者の――
 頭を振ってイメージを払うと、ツナは己の家庭教師に懇願した。
「リボーン、頼むからちゃんと答えてくれよ……。銃なんか持って、兄さん……心配なんだよ……きっとあいつらに、無理矢理あんなことさせられてんだろ!?」
「10代目……」
 気遣わしげに、ツナの右腕を自称する獄寺が眉を寄せる。しかし、小さな家庭教師の、教え子に対する視線は冷ややかだった。
「お前、本当はわかってんだろう。――綱重が自分の意思でお前に銃を向けたことも、あいつが本気で撃とうとしていたことも」
「っ!」
「先に帰るぞ。腹が減りすぎて限界だ」
 リボーンがそう言って立ち去るのを、ツナは止めることができなかった。

「うーむ。よくわからんが、とりあえず、沢田には兄がいたのだな!」
「全然知らなかったぜ。顔がちょっとツナに似てるのな」
「このバカコンビッ、なに能天気なことを言ってやがる! 今のやり取りの何を見てたんだよ!」
「ツナ〜! 早くランボさんをおんぶしろ〜」
「アホ牛も空気読みやがれ! ……10代目?」
 ひょいっとランボを抱き上げながら、ツナは友人たちに向かって緩く微笑んだ。
「――兄さんのこと、話さないようにしてたんだ。リボーンに、兄さんのことを隠さなきゃって……マフィアだの10代目だのって、兄さんのことを知ったらそっちに行くんじゃないかって思ってさ」
 でもそれってムダなことだったみたいだ、とツナは小さな溜め息を吐く。
 一年半前、お前には初代ボンゴレの血が流れていると告げられたとき、真っ先に兄のことが頭に浮かんだ。マフィアのボスになんか絶対になりたくなかった。だが、兄にあの滅茶苦茶な赤ん坊を押し付ける気は、もっとなかった。ダメツナな自分を後継者に指名するぐらいだから、ボンゴレのやつらは兄を知らないのだろうと勝手に考えて、それならば兄がいることは隠し通してやろうと思っていた。死ぬ気弾を撃ち込まれる度、誰かに命を狙われる度、その思いは強くなっていった。兄にこんなことはさせられない、と。
 けれど、父も兄も、とっくにマフィアと関わりがあったのだ。考えてみれば、あの赤ん坊が兄のことを知らないなんてことあるはずがない。何も知らなかったのは、自分の方だ。自分だけだ。
「ツナ兄……」
 心配そうなフゥ太を安心させるようにツナはもう一度微笑んで、それから獄寺に向き直る。
「そうだ! 獄寺くん、イタリアで兄さんについて何か聞いたことないかな!?」
「い、いえ、それがまったく」
「……そっか」
「お役に立てず申し訳ありませんっ、10代目!」
 勢いよく何度も頭を下げる獄寺を宥めながら、ツナは、あの様子ではきっとリボーンは答えてくれないだろうなと考えていた。


prev top next

[bookmark]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -