06

 綱重は、一番最後にその場に辿り着いた。先ほど隊員から受け取ったヴァリアーの隊服を肩にかけ、腰には同じく指示をして持ってこさせた長剣を下げている。
 ゴーラ・モスカの後ろで、乱れた息を整えながら状況を確認する。まず目に入ったのは、ザンザスの足元に突き刺さったつるはしだ。見るまでもなく、それを投げた人物を綱重は理解した。自分と同じ、金色の髪と琥珀色の瞳を持つ男。――父、家光。
 スクアーロの挑発に、逃げていたわけではないと静かに返す父の声を聞きながら、綱重は銃を取り出した。
「だが、会うのは久しぶりだ。僕も随分と探したんだけどね――父さん」
 家光が驚いた様子で声のした方向に顔を向ける。そして自分に向けられた銃とそれを構えている我が子の姿を確認すると、ゆっくり首を横に振った。
「銃を下ろせ、綱重」
「下ろせ、か。随分と余裕だな。撃つわけないと思っているのか、それとも撃たれても平気だとたかをくくっているのか。……まあ確かに僕の射撃の腕は悪いけど」
 くっ、と綱重の口元が歪んだ。そして拳銃を持つ手に力をこめる。微かだが――ツナたちからは確認できないだろう――炎が銃に吸収されていくのを家光の眼が捉えた。
「一週間かけて『蓄積』してある。そこの足場ごと吹っ飛ばすぐらいは出来る」
「っ、綱重殿……! なぜです、なぜ我々に銃を!」
「なぜ? 聞きたいことがあるのはこっちの方だ。父さん、今日こそ答えをもらう。なぜ――」
 綱重はバジルと父を見、そして目だけで、下の道路にいる弟を見やる。
「なぜ、僕じゃなく綱吉が10代目候補なのか」
「……兄、さん……?」
 ツナが呆然とした様子で兄を呼んだ。
 親方様と呼ばれる父、予想されていた期日よりも早く現れたヴァリアーと呼ばれる男たち、そして久しぶりに目にする兄。全てが、少年が理解できる範疇をこえていた。
 そのときカチャリと小さな音がして、ツナは兄から自身の足元へと視線を移した。そこでは小さな家庭教師が銃を構えており、ツナは驚きの声をあげる。
「リボーン! お前、やめろよ! 兄さんに銃なんか向けるな!」
「うるせえ。状況を見ろ」
 リボーンは銃を向けたまま、綱重に問いかけた。
「お前を10代目候補に指名し直せと言いたいのか」
 しかし綱重が答えるより先に、レヴィがいきり立った。
「貴様、やはりボスの座を……!」
 レヴィの手が背中に差した電気傘へと向かう。それと同時に――いやそれよりも幾ばくか早く、綱重は銃を持つ手とは逆の手で剣を引き抜いていた。炎が揺らめいているような、不思議な形状の刀身が闇夜に煌めく。
 ガキンッ!
 波打つ刀身が、サーベル状の武器を絡めとるようにして弾き飛ばした。
「ぐっ……」
 喉元に剣先を突き付けられ、レヴィは動きを止めるしかない。
「うししっ。おもしれー。これって三つ巴ってやつ?」
「ベル、そんな言葉よく知ってたね」
「あ? なにこのチビ。もしかして王子に喧嘩売ってる?」
「ちょっと、何そこでも戦いをはじめようとしてるのよぉ〜」
「う゛お゛ぉい! このバカどもがあ! 少しは大人しくしてらんねえのか!」
 どんなときでも騒がしい仲間たちに、綱重は、小さく息をついた。
「……僕はただ、誰が10代目に相応しいか、もう一度きちんと考えてほしいだけだ」
 そう言って、銃口の向かう先を父から弟へと移動させる。ツナの大きな瞳が更に見開かれ、彼の周りにいる者たちには緊張が走った。
「綱重、馬鹿な真似はよせ。そんなことをしても何もならない」
 父の制止の言葉はしかし綱重にとって、覚悟を決める一言となった。剣を投げ捨て、空いた手で銃を支える。
「兄さ、ん」
 すうっと息を吸い込み、狙いを定め――

「いい加減にしやがれ、カスが」
 鈍い音とともに、綱重の体は地面に強く叩きつけられた。ザンザスの、手によって。
「考えるまでもねえ。テメーには無理だ」
 自分を見下げる紅い瞳を、綱重は、地面に這いつくばったままで見つめ返した。
「家光、とっとと話を続けろ」

×

「"兄さん、待って!"」
 裏声を使い、ベルが高い声で叫んだ。ザンザスとモスカ以外の者が呆れた様子で、後方を走る最年少の幹部を振り返る。
「あんなに必死に呼んでたのに振り向いてもやんねえなんて、血を分けた兄弟なのにヒデーの」
「……その言葉、お前にだけは言われたくないな。血を分けた兄貴が草葉の陰で泣いてるぞ」
「しししっ。オレは特別。だって王子だもん」
 溜め息をついて視線を前方へ戻すと、ちょうどそこには、彼らが日本での拠点にしている屋敷が見えはじめていた。
 何かを振りきるかのように、綱重の足が地面を強く蹴った。


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