1
「呼び出しだって?」
「……っ、ああ、そうだぁ」
「ザンザスだけが呼ばれたんだろ? 運転手なんか平隊員にやらせればいいのに」
「糞ボスの八つ当たりに耐えながら運転し続け、事故ることなく目的地まで辿り着けるだろう奴がいるなら名前を言え」
「スクアーロ」
「そうだろぉ、俺ぐらいだろうが」
「いや、どうして僕の方を見ようとしないのかと思って」
「!」
「……」
「……」
「……」
「う……ぅ、う゛お゛ぉい! 着替えにどれだけ時間かけるつもりだぁ! 早く出なきゃ間に合わねーだろうがぁ!」
「るせえ! ドカスが!」
「ぐはっ!」
2
「なーに廊下の真ん中で突っ立ってんだよ。その挙げてる手は何か意味あんの? つうかボスは?」
「……9代目に呼ばれてスクアーロと本部に行ってる。それより、ベル」
「ん?」
「お前、挨拶代わりにナイフ投げてこなくなったな」
「投げて欲しいのかよ」
(あ、拗ねた)
「そりゃ王子だって命は惜しいっつうか」
「命?」
「お前、時々避けきれなくて怪我すんじゃん」
「……で?」
「…………、自分の物を傷つけられてボスが黙ってるか?」
(今度は不満そうな顔)
(でも“物扱い”にムカついたわけではないらしい)
「理由はそれだけ?」
「あ?」
「なんか他の皆にも避けられてるんだよ。今もレヴィがそこに居たから挨拶しようとしたら物凄い速さで消えてったし」
(手を挙げたまま固まってた理由はそれか)
「ふーん。煩いのが近寄らなくなってよかったじゃん。羨ましいぜ」
(眉間の皺が増えた)
「何が不満なんだよ? いつもレヴィに絡まれて“スゲーうぜえ”って顔してたくせに」
「ウザいとは思ってたけど嫌ってはない」
「あー、お前らボス大好き仲間だもんな」
「だ!? なななな何言っ、」
(おお、完熟トマト)
3
「久々に二人で過ごせる休日を邪魔されて辛いのはわかるけど、溜め息なんか吐いちゃダメよ」
「……違う」
「あら、隠さなくたっていいのよー。急な呼び出しにボスだって大荒れだったんだから。お陰で見てよ、この顔! ボスの愛の鉄拳でこんなに腫れちゃって」
「ルッスーリアは変わらないよな」
「いやだからかなり腫れてるでしょ? 顔の形変わってない? なによ、普段私の顔全然見てないの?」
「……そうじゃなくて」
「成る程ねえ」
「レヴィの反応は覚悟してたし、ベルは話を聞いて納得できたけど……でもスクアーロの態度の理由がわからなくて」
「――君、気づいてないのかい?」
「マーモン」
「早かったわね。帰りは明日になると思ってたわ」
「フン。あの程度の殺しに手間取るわけないさ」
「……気づいてないって、何が」
「首筋のその跡さ」
「あと、って……、〜〜〜〜っ!」
「なーんだ。わざと見せつけてるのかと思ってたけど違ったのね」
「見せ……っ、なわけないだろっ!」
「君、今更押さえても遅いよ」
「うるさい!」
「ム。折角ただで教えてやったっていうのにその態度はいただけないな。こっちは今からでも情報料請求してもいいんだけどね? ――ともかく、スクアーロは、ボスと君の昨夜を色々と想像してしまって気まずかったんだろう」
「……」
「じゃあこれで解決ね」
「……」
「まだ何かあるのかい?」
「いや、その……スクアーロは気まずいというか僕みたいなのがザンザスと、っていうの……認めたくないんじゃないかって……レヴィもベルも……」
「……。……そうね、確かに長年ボスを想ってきた私としては、二人のことを知ったときは悔しかったわね」
「ルッスーリア。やめなよ、本気にしてる」
「あら! やだぁ、そんな申し訳なさそうな顔しないでちょうだい! 冗談よ冗談!」
「……でも、」
「貴方があまりに馬鹿馬鹿しいことで悩んでるから少しイジメたくなったの。まったく本当にバカね。認めてるって言葉にしなきゃわからないの? 私たちが素直じゃないの知ってるでしょ?」
「……」
「大体ね、ボスに相応しくないって本気で思ってたら、レヴィは貴方を抹殺しようとするでしょうし、スクアーロやベルちゃんだって黙っているはずがないでしょ。何よりここにいる守銭奴の赤ん坊がこれほど絶好なネタを掴んでいながら脅迫もしていないのよ!」
「失礼な言い方はやめてくれないか」
「なら日頃の行いを改めなさい。――あ、そろそろパイが焼きあがる頃だわ。食べながらボスの帰りを待ちましょ。ねっ」
「…………ルッスーリアってお母さんみたいだよな」
「君、大丈夫? 頭でも打った?」
「ちょっと! どっちが失礼なのよ!」