03

 飛行機に乗り込む前から――いや、一緒に日本に向かうことを告げたときから、すでに向けられていた突き刺すような視線。ずっと無視していたが、一眠りしようと目を閉じるとそれが妙に気になって眠れない。それでも十数分、眠る努力をして、しかし結局綱重は後ろを振り返った。
「レヴィ。鬱陶しいから目を閉じろ」
「何を偉そうに! 俺はもう貴様の部下ではないぞ!」
(……部下だったときも素直に命令を聞いたことなんてなかったくせに)
 綱重はうんざりした様子でレヴィを見やる。
 つい一ヶ月前まで、綱重はこの暗殺部隊ヴァリアーを取り仕切る位置にいた。いきなりボスの座に収まった、門外顧問の息子であり、当時は10代目候補でもあった綱重を、ザンザスを崇敬するレヴィが快く思わないのは当然だった。綱重が10代目候補から外されザンザスが戻った今でも、何かと突っかかってくるのは変わらない。むしろ堂々と文句を言ってこれるようになった今の方が悪化したといえる。
(しかもこれ絶対八つ当たりも入ってるよな)
 ゴーラ・モスカだけがザンザスと一緒に別のジェット機――9代目専用機だ――に乗り込んだことがレヴィは気に食わないのだ。
「大体、守護者でもなく、ただの一隊員に成り下がった貴様がなぜ幹部専用機に乗っているんだっ」
「……今更そこに突っ込むんだ?」
 イタリアを発ってからすでに二時間が経過している。綱重が小さく溜め息を吐いた。
「僕が日本に向かうことを了承したのも、これに乗ることを指示したのもザンザスだ。文句ならあいつに言えよ」
「! 気安くボスの名を口にするな!」
 激昂し立ち上がったレヴィだが、次の瞬間、辺りに鈍い音が響くのと同時に、カクリと膝から崩れ落ちる。
「よかったわあ〜。元気がでてきたみたいね!」
 力の抜けたレヴィの体を座席に戻しながら、ルッスーリアが明るい調子で口を開いた。
「何だ、元気って」
「お前、この一ヶ月誰とも喋らなかったじゃん」
 答えたのはベルだ。
「……忙しくしてるやつを捕まえてまで、話す用がなかっただけだ。そっちだって誰も僕に話しかけようとしなかっただろう」
「あら? もしかして拗ねてたの? ごめんなさい、無視してたわけじゃないのよ〜。スクアーロが今はそっとしておいてやれって言うから」
「う゛お゛ぉい! 何喋ってんだぁ!」
 ルッスーリアを締め上げるスクアーロ。綱重の視線に気づき、その顔がみるみる赤くなっていくのが、長い髪の隙間からでも伺える。
「僕は、君にはそんな気遣い必要ないって言ったんだけどね」
 そう言うマーモンを抱えながら、ベルが笑った。
「いらない気遣いだろうがなんだろうが王子に気を遣わせたのは事実なんだから、向こうに着いたら道案内ぐらいしろよな」
「無理言うな。もう八年も帰ってないんだ。――家の場所も忘れたさ」
 しばらく寝かせてくれ、そう言って綱重は、今度こそ睡眠をとるために目を閉じた。


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