微笑みと眩暈
*極限に書きかけ。微エロ。
獄寺は頭を抱えていた。
ついウトウトと眠ってしまったのが運の尽きだ。目を覚ましたとき耳に届いたのは、衣擦れの音と何かが絡み合う水音。……何が行われているのか分からないほど鈍感ではない。そして見過ごすほど優しくもなかった。
中学生だったあの頃ならいざ知らず、今や彼は、ボンゴレ十代目の立派な右腕である。自分が注意せずに誰がする。
ここをどこだと思っているんだ! 資料室だぞ!
居眠りしていた自分を棚にあげ、そう怒鳴り声をあげかけた瞬間だった。
「……ザンザス……」
口付けの合間、愛しげに名前を呼ぶ声に、そして呼ばれた名前に、獄寺は硬直した。
今思うとやはりあの時に出ていくべきだったのだ。まさかこんな所でするはずがない、と思った……いや思いたかったのに、耳に届く喘ぎ声はどんどんでかくなるばかり。完全に出ていくタイミングを失った獄寺に出来ることは、息を潜めて、ひたすらに早く終わることを願うしかない。
「ねえ、もう、我慢……できない、」
「“こんなところじゃ嫌”なんじゃなかったのか?」
「ッ意地悪! ばか!」
「……。泣くまで挿れてやんねえ」
「うー……」
「欲しけりゃもっとねだれよ」
「ザンザ、っあ!」
――十代目。こいつら殺してもいいですか。
生気の感じられない虚ろな目をして、獄寺は心の中で呟いた。しかし彼の敬愛するボスは、争いを好まない。ボンゴレ内部での諍いなんて持っての他だ。獄寺としては、こんな奴ら、味方だなんて思ってもいないけれど――正確に言えば二人とも“ボンゴレ”ではないのだ。先代直属の暗殺部隊ヴァリアーと、門外顧問率いるCEDEF。どちらも外部組織である。それらに所属している二人がそもそも何でボンゴレ本部にいるのかと獄寺は拳を握る。
戦いの後、敵対していた組織や人間たちを許し受け入れてしまう十代目の器の大きさが、今は少しばかり恨めしかった。
棚の隙間から見える重なる人影。腰に絡み付く真っ白な足。
「食い縛るな」
「だって声が……あ、アァ…っ、」
あがりかけた嬌声が唇に吸い込まれていく。
「ンッ、ンッ、……ぅン、」
突き上げられるのに合わせてくぐもった声が鼻から抜ける。苦し気なのにどこか甘えているような声。
「んん…あ、ッ!」
唇が解放されるとすぐに上擦った声が漏れ、同時に、目尻からはポロリと涙が零れる。
「……好き」
泣きながら彼は囁く。
ふわりと綻ぶような微笑みは、幸せに満ち溢れていた。どこまでも甘いそれに、オレは、
「うわああああ!」
己の絶叫する声で獄寺は飛び起きた。
あの日から一週間。忘れたいと思っているのに、毎晩毎晩、あの時のことを夢に見る。
当然酷い睡眠不足である。
しかも問題はそれだけじゃない。
明日、獄寺はCEDEFに行かなければいけないのだ。誰かに押し付けようにも山本も了平も別件で出払っている。ランボに任せられるほど簡単な用件ではないし、相変わらず守護者としての自覚のない骸や雲雀は論外だ。
「うう……」
あの日と同じく、頭を抱えるしかない獄寺だった。