違う世界へ(0-3)
「……で?」
「やつらが開発していたのは、平行世界を覗くための薬だった」
ザンザスが僅かに眉をあげる。
「どこからか白蘭やその能力についての情報が漏れたみたいでさ。ま、理論的には出来上がっていたようだけど、実用にはまだまだで、僕が浴びた液体も結局無害だったんだ。床に溢れていたサンプルも調べたし、父さんがヴェルデってアルコバレーノにも一応相談したんだけど“ただの人間がそんなものを作り出せるわけがない”って一蹴されたらしいよ」
それらが判明し、僕が軟禁生活から解放されたのは三週間後だった。
久々の再会を果たし、今すぐにでもその体に触れたいと思っているのに、父さんがザンザスに何も説明していなかった所為で、こうしてくだらない話をさせられている。というか本当はまだ外部の人間には何も話しちゃいけないんだけど(博士に薬の開発を指示していた富豪が自殺したため、情報ルートの解明が終わっていないのだ)――三週間も連絡なしで、ザンザス、凄い怒ってるんだもん。話さないわけにはいかなかった。
「というわけで、わかってくれた?」
返事はなかった。かわりに腕を引かれ、椅子に座るザンザスの膝の上に向き合う形で乗せられる。
唇が重なる。すぐに絡み合う舌は、ザンザスも僕を求めてくれていた証拠だ。
「……、……病室で、ずっとザンザスのこと考えてた」
キスの合間に告げる。わざわざ言わなくてもザンザスはわかっているだろうけど。
――僕がどれだけザンザスを求めていたか。
「っ、ちょっと待って」
「あ?」
シャツの合間から滑り込んできた手を止める。焦らすつもりかと睨みあげてくる瞳に、首を横に振って答える。
「……なんか、変だ……」
言っている間にも、違和感の正体はどんどん大きくなっていく。
触れられているのに何も感じない。
まだザンザスの腕の中にいるはずなのに、まるで現実味がなくて。
「気持ち、わる……」
グラグラして、視界がぼやける。
ザンザスが何か言ってる。でも、聞こえない。わからない。
感覚という感覚が遠くなっていく。
違う、遠くなっていくのは、僕が、
「いやだっ」
慌てて目の前の体にしがみつくけれど、無駄だった。